「あれぇ?花子おねーさんだぁ!」

「あら、コナンくんじゃない」

とうとう来た。その時が。私は手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置いて、コナンくんに向き合った。

「どうしたの?一人?」

「うん!今日は蘭ねーちゃんが帰り遅くなるから、ここでご飯食べてねって言ってたから」

コナンくんが持っていたゲーム機をちらり見て私はにこりと笑った。暇つぶしもかねてるわけだ。そして一人で来たのか。なるほど。「隣に座っていい〜?」「もちろんよ」やったぁと笑顔のコナンくんが私の隣に座ると、来客の存在に気が付いたウェイター・・・安室透がお冷とお絞りを持ってやってきた。

「やあコナンくん。今日は一人かい?毛利先生は?」

「小五郎のおじさんはまた後で来るみたいだよ。ボクはゲームしようと思って先に来たんだ。なんかおじさん忙しいみたいで、ゲームしてたら煩いって怒られちゃって」

「そうなんだ。それはそうと、コナンくん。こんな美人の知り合いが居るなら紹介してほしいよ」

きた。「やだ、本当にお世辞が上手ね・・・」私はコナンくんに目を向けた。コナンくんと目が合ったが、特に何かあるわけでもなく、コナンくんはいたって普通に話し始めた。

「花子さんって言うんだよ。花子さん、この人は安室透さんって言っておじさんの助手をしている探偵さんなんだ〜」

なるほど。ここでお互いの名前を知り合うわけだ。さり気無く安室のフルネームと職業まで教えてくれるコナンくんナイス。後でボロが出にくい。そうやって先手を打ったわけだ。本当に侮れない子だわ。

「あら、探偵さんなんですか?どうりで頭脳明晰っていう雰囲気出してると思った。それにしても、共通の知り合いがいるとなると他の安室さん目当てのお客さんに睨まれそうだわ」

「いえ・・・そんな事は・・・。いっそのこと勘違いしてくれたら嬉しいんですけれどね」

照れたように笑うその表情はまさに優男と言った感じだ。この男相当猫を被っているな?

「ねえ安室さん!オレンジジュースちょうだい〜!」

「はい。ちょっと待っててね」

にこやかに安室が去って行くと、コナンくんはニヤリと笑って「花子さんの事が気になって仕方なかったみたいだね」と囁いた。「そうだと嬉しいんだけど・・・ね」
それから私達はあたり障り無いことをずっと喋り続けた。主に私が聞くような感じではあるが、今何が流行っているの?とか、授業はどう?とかそんな他愛の無いものだ。

「あ、コナンくんポテト食べる?」

「え?いいの?食べる、ありがとう花子さん!」

私たちのやり取りをウェイトレスが微笑ましげに見ていて、注文を聞きに来てくれた。

「フライドポテト一つください」

「かしこまりました」

女性はニコリと微笑んで去っていき、去り際にオレンジジュースを持ってやってきた安室さんを引っ張って行ってしまった。
あのウェイトレスやけにニヤニヤしていたが・・・。

「そうだコナンくん。今度のキャンプだけど、私も行く事になったわ」

「そうなんだ!でも花子さんいっつもお仕事で行けないって断ってるでしょ?」

「今回はたまたま休みが取れたのよ。今度のところは大事を取って大人が二人居る方が安心だって言うから・・・」

「そうなんだね!お休みで良かった!きっとみんな喜ぶよ!明日皆に知らせてあげようーっと!」

「キャンプですか?いいですね・・・」

自然な流れで会話に参加してきた安室さんに微笑を向けながら、「ええ、そうなんです」と相槌を打った。「毎回誘われてはいるんですけど、なかなか仕事の都合で行けなくて」
安室はそんな私に同じように微笑を返すと、コナンくんに目線を合わせるようにかがんで顔を覗き込んだ。「今度はどこに行くんだい?」爽やかな顔である。なるほど女性受けするわけだ。そういえばコナンくんが安室さんは29歳だって言ってたけか。この幼顔で、29歳。昴さんより年上とか信じられない。

「んー・・・、」とコナンくんは考える素振りをしてから眉根を下げて、安室さんの問いに答えた。「そういえば博士、今回はどこに行くのか教えてくれなかったなあ」
私はその話にあわせるように相槌を打った。

「そうね、お楽しみだと言っていたわ。きっとあなたたちをビックリさせたいのね」

「それは楽しみだね。またお土産話を聞かせてね」

その返答を聞いた安室はそれ以上話に入る事は出来ず(というかそれ以上踏み込んでも怪しさが残るだけなのでしなかったと言う方が正しいのだろう)、ぱちりとウインクをして颯爽と去って行った。一切の興味が無いように。
しかしその、言葉の端々に不自然が漂う。人は何か嘘を付いている時や殺意・悪意のあるような時、拭いきれない違和感というものが発生する。それは本人が意識して消しているはずのものであるが、“意識した”という事実がどうしようもない動かぬ証拠となってしまうのだ。
こちらを振り返りもしない安室をチラリと盗み見て、私はまたコーヒーカップに手をつけたのだった。



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