見知らぬ電話番号からの電話であったが、私は何の躊躇もなく電話を取った。「もしもし・・・」「花子さんの電話だよね?」思っていた通りの人からの電話でよかった。私は少し笑みをこぼして答えた。「ああ、コナンくん?よかった、連絡先受け取ってくれたのね。そうよ、私よ」そろそろ電話が来るころだと思っていた。
「今からどう?」
「ボクちょうど今博士ん家いるんだ。いつでもいいよ」
「それじゃあ今から行くわ」
「それじゃあね」と電話を切って事務所を出ると、どこにも寄り道せずに阿笠邸へと向かった。
あと100メートルほどのところで人影があることに気が付いた。「あら・・・」どうやらコナンくんは道路で待っていてくれたらしい。目の前に車をつけると、コナンくんは重たいドアを開けてするりと滑り込んでくる。
「もう慣れたものね・・・さあ、シートベルトを締めたら行くわよ!」
「今日はどこに行くの?」
「どこに行こっか」
にやりと笑って見せてから、私は車を出した。が、まあ、行先は当然決まっていない。
まあいつものように適当に走っていればそれでいいだろう。
そして単刀直入に切り出した。
「ジョディが赤井さんを見たらしいわよ」
「えっ・・・?」
思っていた通りの反応だ。そしてコナンくんはしばらく黙ると、「まさかベルモットか・・・?」と呟いた。わお、さすがね。こんな短時間でここまでたどり着くなんて。
「ベルモットっていうやつが変装の名人なんだよ。きっとそれで赤井さんに変装してるんだろうね・・・それで、ジョディ先生は他に何か言ってた?」
「ええ、口が聞けないのか記憶が無いのか、話しかけても何も反応がなかったって言ってたわ」
「へえ・・・」
その答えで満足の行く推理を組み立てられたであろう彼は、にやりと不敵に笑って探偵の顔を見せた。「バーボン・・・」その姿に昴さんを重ねて、私は内心お手上げだった。
どうやらこの件には私は不要なようだし、それならば今回は大人しく待機していようと思ったのだった。
「おかえりなさい。で?どうだったのよ」
例のその日、返ってきた昴さんをいつもとは逆の立場で出迎えて、私は問いかける。「収穫はありましたよ・・・」昴さんはふっと笑みを見せて、私の横をすり抜けた。
「確かに見ました。その火傷の男を・・・。それにわかりやすく百貨店の出入り口で待ち伏せるスナイパーとポルシェ356Aもね・・・」
「まさか!そんな人通りのあるところにそんな目立つ人たちが!?」
「ええ、そのまさかですよ。まあ、獲物は取り逃がしたようですがね・・・」
そんなやつらを私たちはいつまでたっても捕まえられないというのか・・・。私は思わず頭を抱えた。あいつら姿こそそんなに現さないくせに、いざとなるとそういう目立った行動に出るのだから笑わせる。素人集団かよ。でもそれを捕まえられない私たちは一体なんなの・・・。
落ち込みに落ち込んで自己嫌悪に陥っている私を横目に、昴さんは「バーボン・・・執念深い男だ・・・」とくつくつと笑っている。そこまで興味を抱くのは珍しい。やっぱり宿敵だからだろうか。
「だから何がどうってわけじゃあないんですが・・・思ったよりもすぐに彼は僕たちのところまでたどり着きそうですね」
「・・・はあ、そしたら私が彼の倍動いて先に正体を突き止めなくちゃね・・・」
今私の中にある情報は、“バーボン”は“男”という情報だけだ。やる事がまだまだたくさんある。山のように積みあがった問題に、私は頭を抱えたのだった。
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