ピンポーン。インターホンを鳴らすと、いつものように哀ちゃんが対応してくれた。「花子さん?今日はどうしたのかしら」博士なら今ちょっと手が離せないわよ。と律儀に教えてくれた哀ちゃんに、「ああ、いいの」と手を振る。

「あのね、コナンくんに連絡先聞くの忘れちゃって・・・」

「なるほどね、それで家を連絡係にしてるってわけね」

辛辣な言葉と目を伏せた笑みは言葉と態度が反比例している。やれやれといった様子の哀ちゃんに袖の下として帰りに買ってきたケーキを献上した。わざわざ並んで買ってきたのだ。・・・そうそうそうやって可愛い顔を拝ませてくれないとわりにあわないくらいだわ。

「私を買収しようって言うのね」

「まあまあ、これでも収めてくださいな」

冷たい態度の割には嬉しそうだ。こういうところが大人ぶってる女の子っていう感じで非常に可愛い。ものすごく可愛がりたい気持ちを抑えて、私は至って冷静に自分のスマートフォンを差し出した。

「これ、私の連絡先よ。まだ哀ちゃんにも教えていなかったわね?これコナンくんに流してもらうか、私が用があると伝えておいてほしいのよ。私の連絡先を受け取るか受け取らないかはコナンくん次第だけど、哀ちゃんには私の連絡先知っておいてほしいわ。いざっていうときに助けになると思うから」

「ありがとう・・・」

哀ちゃんは最後の言葉だけを拾って素直に返事をした。つんとした態度がデフォルトみたいだけど、案外可愛い子だ。

「それじゃあ、私はそろそろ帰るとするわ。それじゃあね、阿笠さんにはよろしく伝えておいて」

「ええ、それじゃあおやすみなさい」

「おやすみ」

そして私は哀ちゃんに別れを告げて帰宅した。



「花子さん、寄り道なんかして、どうしたんですか?」

「おかえりなさい」の後に続いたのはそんな問いかけだった。まさかこの男私の事を監視して・・・まあ、それは無いだろう。もし監視しているとしたら・・・その話はまた後でいい。

「それよりも聞きたい事があるの。あなた最近その恰好以外の恰好で出かけたりした?」

「?いいえ・・・それがどうかしたんですか?」

「・・・そう」

いつまでも玄関で立ち話しているわけにはいかないので、私たちはリビングに場所を移す。
せっかくだしと家用にも買ってきていたケーキを昴さんに渡して私は上着を脱ぎながら切り出した。「それがね、ジョディが赤井さんを見たって言うのよ」私とは別の方向に歩いて行った昴さんが「ほぅ・・・」と呟く。「顔には火傷の跡があったらしいわ。ジョディは赤井さんがあの燃え盛るC-1500から上手く脱出して生き延びていたのかもしれないと言っていたわ」
手早くケーキを冷蔵庫に仕舞った昴さんがコーヒーカップを両手に持って戻ってきて、私の隣に座った。どうやらコーヒーを淹れておいてくれたようだ。受け取って一口口に含むと頭が冴えた気がした。

「そのおかげで私にもあらぬ疑いがかけられて大変だったけど。でもまあ、あなたがそうだって言うんなら、十中八九、あの組織のやつらの仕業ね。これは罠だわ・・・。どういう心づもりなのか知れないけど」

「あらかたあちらさんも彼が死んだのは実は嘘だったのでは?と疑っているんでしょうね・・・。それで彼の恰好を真似て、カマをかけようとしている、と考えるのが妥当でしょう」

「なるほどね・・・普通に声をかけてきたのなら実は生きてたってことで、FBI側の嘘が露見するし赤井さんの生存が確定、もしも生きてたのか?とかそういった反応であれば本当に赤井さんは死んでいて、やつらは安心を手に入れることが出来るわけだ。そういえばジョディ、赤井さんに声をかけたけど爆発の影響なのか口が聞けないか記憶が無いのかで反応がなかったって・・・。そりゃあしゃべったら声でバレる・・・そういうふりをしていた方が都合が良かったのね」

「そうですね。しかしわざわざ火傷の跡まで入れてくるとは。そこまでの特殊メイクや変装ができるとなると」

「そうね、実行しているのは変装のプロ・・・かしら」

幾度かジョディに変装していたらしい女の事を脳裏に浮かべながらつぶやく。どうやら昴さんも同じことを思っていたようで、ふむと頷いていた。
しかしその女がそこまでの事をして揺さぶりをかけてくるものか?それに、やるとしたらもっと早くに行動に移していたはず・・・。
となると入れ知恵をしたのは別の人物か。はたまた別の人物が変装だけ委託したか。

「バーボン・・・その人物が関わっている可能性は高いですね。声でバレる、ということはそうだと思います。何しろあなたが思い浮かべている女は声帯まで変装できるようですから」

「そうなの・・・なるほどねえ」

確かにその可能性は否定できない。何にしてもバーボンか・・・。私はまだそのバーボンの足元にさえ近付いていない。どうやらここをクリアしなければ何も進展はしなさそうだった。

「それで、ジョディはその赤井さんが被っていたキャップに目をつけていてね。どうやら米花百貨店のオリジナルキャップだったらしいのよ。今度そこに聞き込みに行くと言っていたわ。罠だとしたら危ないかも」

「そうですね・・・しかし今あなたが外でむやみに彼女に接触するのは避けた方がいい・・・もしバーボンが関わっているとしたら、あなたの素性が今ばれるのはあまり好ましくない・・・。ここは僕に任せて、あなたは身を隠して隠密に徹した方がいいでしょう」

「それじゃああなたに任せることにするわ・・・。一応、ジョディとはこまめに連絡を取り合うことにしているから、その日になったら昴さんにも連絡を入れることにするわ」

何も進展しないのに目先の問題だけは増えていって、眩暈がしそうだった。




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