「バーボン?」と言われた名前を復唱する。酒の名前と同じそれは、例の組織の幹部につけられるコードネームである。ふむ、なるほど聞き覚えはない。

「そう。そのバーボンって奴が動き出したらしいんだ」

私の車の助手席でコナン君は顎に手を当てて考える仕草をする。「まだどんな奴なのか
分かってないんだ・・・。花子さんも気をつけてね」
「ええ・・・」一応情報だけは共有しようということか。助かる。聞けば、それはジェイム
ズとジョディから聞いたらしかった。水無怜奈がそう言ったのだそうだ。
次から次へと問題が出てくるな・・・一つ片付けたらもう一つ・・・。現状何も出来ない以上
は、頭を抱えるしかない。とりあえず家に戻ったら昴さんに聞いてみよう。
今回はその注意喚起だけで、お互い別の岐路についた。

「ただいまー」

「ああ、お帰りなさい花子さん」

昴さんが出迎えてくれたので、早速ではあるが聞いてみることにする。

「ねえ、バーボンという人を知っている?」

昴さんは一瞬歩みを止めて、間を開けてから「ああ・・・知っている」と答えた。
まあ、知っていてもおかしくはない。なんせ赤井さんは以前あの組織に潜入していた事があるのだから。

「どんな人?男?女?」

「男だ。・・・そのバーボンがどうした」

「それがね、コナンくんが最近バーボンってやつが動き出したらしいから注意した方がいいと教えてくれたのよ。表立って動き出したのなら、私は今までよりももっと行動に気をつけて生活しなくちゃならないでしょ?後から身動き取れなくなると困るし、なるべく素性を誰かに知られるのは避けた方がいいわ」

「そうだな。良い判断だ」

さてさて。まずは隠れて相手の動向を窺うか。




「ちょっと出るわよ・・・」

事務所に行くや否や、そう言ってジョディは私のことを連れ出した。よく内緒話をしたい時とかに使われる暗黙の部屋に誘われて、ジョディは「シュウを見たわ」と囁いたのだ。

「えっと・・・でもそんなはずは。確かに赤井さんは死んだはず・・・?」

赤井さんが赤井さんの姿で世の中に出ることは万に一つもありえない。
ジョディの話では、先日米花町で起こった銀行強盗に巻き込まれた時に見たというのだ。火傷の跡がある赤井さんそっくりの人を。
話しかけたがどうやら口をきけないのか記憶が無いのか何も反応が返ってこなかったと言う。

「ま、まさかそれってゆ」

「そんなはずないわ!確かにあの時私の隣で人質になっていたし、他の人と同じようにガムテープを張られていたしね・・・」

「落ち着いて、ジョディ・・・。あなた気が滅入っているんじゃない?」

ジョディはまるで悪霊にでも憑りつかれた様な顔をしていた。
まさか本当に気が滅入って・・・?

「花子・・・あなたシュウの事を嫌っていたわね・・・?」

「えっ・・・と、嫌っていたっていうか苦手って言うか、・・・まあ、結果的には」

「あなたまさか向こう側の人間じゃあ・・・」

「そんなまさか!」

これは参った。まさかこんなところでこんな話になるとは。
とりあえず事実確認はしなければならないから今日帰ったら聞いてみようと思う。まさか彼に限ってそんなリスキーな事をするはずはないと思うのだけど。
だってみすみすそんなことをしてはせっかくの工作がすべて無駄に終わってしまうし、もし組織の奴らに見られでもしたら大変な事だ・・・そしたら水無にも危険は及ぶ・・・。
そんなことありえない。

「ジョディ・・・私こんな事言いたくないんだけど・・・何かの間違いなんじゃあ・・・?この話誰かにもした?」

「いいえ、していないわ」ジョディは剣呑な顔を崩さずに続けた。「私があなたにこんな話をしたのはね、私があなたを一ミリでも疑っているからなのよ」

「ちょっと・・・!」まずい、ジョディは本気だ・・・。何とかして言い訳を考えなければ。こんな所、躓くようなところではないのだ。

「シュウが生きていると知って喜ぶのは私たちFBI・・・だけど喜ばない人は誰?もちろん、例の組織の連中よね」

「お願いジョディ、話を聞いて?それなら、赤井さんを探してみよう」

「・・・・・・」

「もしかして本当に生きていたんだとしたら、組織のやつらに見つかる前に私たちで保護しなきゃならないでしょ?死んだと思っていたシルバーブレットが生きていたなんて、最高の切り札だわ。それに・・・」ジョディの顔色を伺いながら、私は続ける。「逆に、組織のやつらの罠だっていう可能性もある・・・」

ジョディはその鋭い目で値踏みをするように私を睨みつける。とにかく、話の方向性を少し逸らすことが大事だ。気取られぬよう、さりげなく、そして辻褄が合うように不自然さを消して。

「お願いジョディ、私の身の潔白を証明するためにも、私にも赤井さんを探すのを手伝わせて。ね?お願い」

「・・・そこまで言うのなら一先ずは信用してあげる・・・。けど、不審な動きを見せたらわかってるわよね?」

射すくめるようなその目に怯んだ。正直に怖い。真剣な顔をしている時のジョディは迫力がある。

「わかってるわ・・・それで、詳しく聞かせてくれる?」

「ええ・・・」

そしてその後ジョディは、その時の赤井さんの服装の特徴や何かを話し始めた。とりあえずはだけど一旦睨むのをやめてくれたジョディに胸をなでおろす。
なんで私がこんな無実の罪を問われなくちゃならないんだか。
しかしこれも私が背負っていたリスクの一つ・・・。文句は言えないだろう。
でも、ジョディが見た赤井さんは一体・・・?もしかして本当に組織のやつらの罠?それともまったく別の第三者・・・?
いずれにしても警戒を怠るわけにはいかないわね。この事は一応コナンくんの耳にも入れておいた方が良さそう。ああもう、私そろそろコナンくんの連絡先を聞くべきだわ・・・。大事な話は常に口頭でと決めてはいるけど、そのためにはまず阿笠さんを挟まなくちゃならないだなんて。

「・・・で、その被っていたキャップが米花百貨店のオリジナル商品だって事を突き止めたのよ!」

「すごいじゃない!」

びしっとジョディが指を突き立ててそう言ったところで、私は慌てて声を張り上げた。
話半分に聞いていたことがバレてはいけないし、乗り気じゃないと思われるのも困るのだ。

「よくそこまで見てたわね・・・さすがだわ。執念って言うのかしら。本当に大手柄よ!」

「ええ・・・。隣でしっかりと見たから、はっきり覚えていたのよ・・・。そのキャップがオリジナル商品だったのが功を奏したわ。とりあえず、今度その米花百貨店に聞き込みに行こうと思うの」

「それじゃあ私はその銀行の近くを見回って赤井さんがいないか探すわ。目撃情報とか、どこに住んでるとかの情報も手に入るといいけど・・・」

「とにかくそっちは花子に任せるわ。何かあったら連絡して」

「もちろんよ!すぐ電話するわ。充電の確認はしっかりしておいてよ?ジョディも何か進展があったら教えてね」

そして私はジョディから解放されて事なきを得たのだった・・・。



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