私がブラックジャックに拘束(?)されてから二週間がたった。
あの野郎私が逃げられないようにいつでも監視役のピノコちゃんをつけてまで私を軟禁しやがった。外に出るのは勿論禁止、誰か人が来たときにはピノコちゃんと一緒に奥の部屋に隠される始末だ。
患者の方だが、経過は良好だ。さすがブラックジャックと言ったところか。男性・・・確か名前はコウスケと言っただろうか・・・の方はもう体調は良くなっている。あとは骨折が直るのと、リハビリを残すだけとなった。女性・・・ミカさんだったか。彼女はもう退院出来る。新生児も問題なく健康だ。彼女を帰すならコウスケさんと一緒が良いだろうという判断の元、私達は彼女の退院を遅らせた。どうやら彼女達はワケアリのようだったから。

「先生ぇ〜ヒマなのよさ!」

「花子と遊んでろ」

「えっちょっとまって私の存在意義」

「ふふふふ、」

書き物机について書類を書いているブラックジャックにちょっかいをかけるピノコちゃんと、杜撰に扱われた私と、その様子を見て笑うミカさん。
私は獄中で警官に書かせた誓約書を弄んでいたが、それを机の上に投げ出して突っ伏した。

「・・・ん?お前さん良いものを持ってるじゃないか」

「げ」

目を付けられた。これは獄中での私が施した治療に対する対価について書かれた誓約書だ。
言い値の請求を飲ませるためにわざわざ書かせてこうして大事に持っているというのに。・・・まあ、ここからも出る事が出来ない以上、この紙を使う時は来ないのだろうが。

「あの事件で手を貸してやったんだ。当然の対価は貰わなきゃならんだろう。どれ、貸してみろ。おれが請求してきてやるさ」

それは心強いってもんだけど・・・。ブラックジャックの事だ、きっと法外すぎるほどに高額な請求をするのだろう。私の考えている額の百倍は取ると思う。
悪い顔をして手を差し出すブラックジャックに、私は少々不貞腐れながらも大人しく紙を手渡した。

「なに、心配するな。仲介手数料と花子の“借り代”をひいても幾分か残るようにしてやるよ」

悪魔にしか見えない顔で微笑んだブラックジャックは紙を丁寧に鞄に仕舞うと、書き物をしていた机を適当に片付けてコートを着た。今からかよ。
ピノコちゃんが「先生!お出かけすゆの?早く帰ってくゆ?」と暢気に後を追いかけてそう聞くが、返事はもらえなかったようだ。閉まった扉の前で不貞腐れた顔をしたピノコちゃんに「どうせすぐ帰ってくるわよ・・・」と溜息を付きながら呟いたのだった。



その後ブラックジャックは本当に多額の治療費を請求して帰ってきた。出かけたときよりも多い荷物にそう確信する。

「先生おかえんなさい!」

ピノコちゃんが甲斐甲斐しくブラックジャックの手荷物を受け取って、それを彼の部屋に置きに行く。ピノコを見送ったブラックジャックはおもむろに私に近寄ってきて、「おまえの取り分だ」と紙袋を渡してくる。それがなんだか分かっている私は何も言わずに受け取った。ずしりと紙の重さが腕に伝わる。その紙袋の中には一万円札が束になってぎっしりと入っていた。うわあ。

「あ、あんた一体いくら請求したのよ・・・」

呆気にとられる私に比べてブラックジャックは上機嫌だ。私の嘆きの声さえ聞こえていなさそうな様子で、ピノコにコートを預けてコーヒーを頼んでいる。
後で数えてみたのだけど紙袋の中にはきっちり一千万入っていた。現金で。・・・うわあ、怖い・・・。こんな多額のお金持ち歩くなんて私には到底・・・出来っこない・・・。
怯んだ私はすぐに私に割り当てられた部屋の荷物の中にきちんと仕舞い込んだのだった。

そして、さて。私の取り分が一千万だとしたら、一体あの男はいくらほど持って行ったのだろうか・・・。大きなアタッシュケースを持っていたが・・・いや、いや、考えるのはよそう。そうだ。私には関係の無いことだ。むしろ気にしてはならない領分なのだろう。



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