おぎゃあー!!という声を聞いて、私はほぅと一息ついた。素晴らしい生命の誕生だ。手早く新生児を産湯で洗って綺麗なタオルで包むと、柵を付けた安置ベッドに仮置きして母体の方に意識を戻す。彼女の体力が続いているうちに手術を終わらせなければならない。
縫合を済ませてから心拍数の確認をしてまた一息ついた。こちらはもう大丈夫。母子共に健康だ。
新生児を安全な場所に移動させてからその足で私はブラックジャックの元へ走った。
手術室の前に警官が座っていたので場所はすぐに分かった。

「あちらの手術はもう済んだんですか?」

「ええ。母子共に健康よ。ご協力感謝しますわ・・・」

警官に一礼してから手術室に入る。ブラックジャックは今まさに手術中。私はピノコちゃんに声をかけた。

「ピノコちゃん・・・消毒を頂戴。私も手伝うわ」

「おねえたん!しゅうつは終わったのね」

「そうよ。母子共に良好、問題ないわ。・・・さて、今どんな状況?」

「肺に突き刺さった肋骨を抜いて肺を修復したところだ。早く手伝ってくれ。・・・ピノコ、汗!」

それから私達はばたばたとブラックジャックの周りに戻ってブラックジャックのサポートをした。何度でも言うが彼の技術は本当に素晴らしい。鮮やかな手つきで折れた骨を補強し潰れた筋肉や血管・神経を修復し、私にその後の処置を任せると、次の部分の処置に移る。私が縫合を済ませる頃、もう既に向こうは作業を終えるところで、私は急かされる形になってしまった。つくづくなんて男だと思う。焦りが出てきたのを悟ったピノコちゃんが私の額に浮いた汗を拭きながら「おねえたん。深呼吸すゆのよ。大きく息を吸ってー吐いてー」と囁いた。呆気にとられた私は一度手を止めてしまうが、すぐにハッとして息を飲んだ。こんな小さな子に心配されるなんて情け無い!しっかりするのよ・・・。言われた通り深呼吸をして、私は手元に集中した。

「花子、今いいか」

「ええ。こっちは終わったところよ・・・」

「患者の左腕部だが、ここだけ状態が酷い。骨は粉砕骨折、筋肉も血管も神経もつぶれてくっついてしまっている。解くのに少し時間がかかりそうだ。こっちの方を解いておいてくれないか」

「確かに・・・これは少し大変ね。わかった。任せて」

ブラックジャックと隣り合って一箇所に集中する。まるで神経衰弱のような作業ではあるが、圧し切られたようなそれを一つずつ丁寧に剥がして分ける。ブラックジャックの少々荒い息が耳に付く。疲れが出ているのだろう。ここは少しでもサポートしてやらなければ。次の作業をしやすいようにしながら私はやっとの思いで全て解ききった。

「骨はもう自然治癒させるのが一番だろう・・・。まずは仮で補強する。砕けた骨は分けておいたか?」

「ええ。大丈夫よ」

「そうか。そりゃあ助かる。さあもうひと踏ん張りだぜ・・・」

「そうね・・・あともう少し」

二人して気合を入れなおして手術に取り組んだ。
その結果、なんとか無事に手術は成功したのだった。後遺症は残らないとブラックジャックは言っていた。ちゃんとリハビリすれば元通りに動かせるようになるだろうと。

「・・・・・・」

「ふー・・・」

疲れきって手術室を出ると、ソファに座っていた警官が立ち上がって駆け寄ってくる。「お疲れ様です!どうですか?」ブラックジャックは警官の横を通り過ぎて、彼が座っていたソファに寝そべって返事を返す。「大成功ですよ」
私は空いている椅子に適当に腰掛けて手術衣を脱いだ。良かったと肩を撫で下ろしている警官に笑みを向けて声をかける。

「ご協力ありがとうございました。手術の事で頭が一杯で言うのを忘れていましたが、後の事は私達に任せてもらって大丈夫ですよ。本人達の意識が戻り次第、またご連絡差し上げますから」

「そうですか。わかりました。では私は一度戻る事にします」

安心した様子の警官はそのまま出て行って、颯爽と走り去って行った。いい事をして気分が良かったのだろう。清清しい顔をしていた。

「さ、て、と」

その様子を見守ってから、私は立ち上がる。・・・が、背後から腕を掴まれて内心舌打ちをした。

「おいおい・・・どこに行くつもりだ?」

「ブラックジャック・・・勘弁してよ。折角円満にあそこを出られたんだから、私はまた暫く潜るわ。あいつらどうせ私を連れ戻しに来るわよ?」

「そんなこたぁさせやしないさ。あんたにはキッチリ借りを返してもらわんといかんのでな。しばらくあんたをここに隠させてもらおうか、花子」

有無を言わさぬその声と目に、私はとうとう諦めて両手を挙げたのだった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -