「う・・・・・・・・・うぅ・・・・・・」

「!?」

突然呻き声が聞こえてきて、私は咄嗟に辺りを見渡した。他に怪我人が居たのか!?とキョロキョロ目と耳で探そうとするが、横になっていた女性の声で理解する事になる。「コウスケさんっ!?大丈夫なの!?」あの男性の意識が戻ったようだ!

「良かった。意識が戻ったのね」

「気分はどうだね」

全員で彼の頭の方に並んで座って話しかける。男性はゆっくりと目を開いて、最初に女性の顔を見て微笑んだ。「ミカ・・・・・・良かった、また会えた・・・。おれは、生きていたんだね・・・」

「あなたは生かされたのよ。こちらの2人のお医者様が助けてくださったの」

「医者・・・?そうか・・・・・・。どうもありがとうございました」

容態は落ち着いているし、どこも異常は無さそうだった。一先ず安心だ。

「あんたはとりあえず一命を取り留めただけだ。外に出たらちゃんとした所でもう一度手術しなきゃならん。しかし・・・あの状況で良く頑張ったな」

ブラックジャックは男性を励ますと、もう一度気分はどうだと聞いた。まだ麻酔が切れていないのか、本調子では無さそうだ。それに、麻酔が効いているという事は傷みもさして感じていないはず。私は未使用の注射器に痛み止めをセットしていつでも出せるようにしておいた。

「さて・・・こっちの患者はおれが運ぼう。花子はその女性に肩を貸してやれ。少しでも良いから前に進むんだ」

「・・・そうね」ブラックジャックの言葉に頷いて、女性の方を見てから顔が青ざめるのを感じた。「・・・そうもいかないみたいよ・・・・・・」女性は私なんかよりももっと顔を青ざめさせて、額に玉のような汗をかいて倒れ込んでいたのだった。

「早産ね・・・・・・破水してるし、陣痛が始まっているわ・・・」

呻き声を上げ始めた女性の手を握って、私は呟いた。

「ああこんな時に!」

「安心したら一気に来たみたいね・・・」

「ちくしょう!ここで取り上げる他無いのか!?」

地面を叩いて悔しがるブラックジャック。後一歩の所で人体の神秘は待ってはくれなかったのだ。あともう少し遅く陣痛が始まってくれればきっとすぐに病院に行けたのに。
・・・・・・待ってくれなかったのは人体の神秘だけでは無さそうだ。地響きのようなものが聞こえてきた。どこかで建物が崩れたようだ。

「!!」

「脱出が先のようね!!」

・・・そうだ!これだけの大惨事が起こったのだ。しかもここは刑務所。連絡がいった時点で既に救急車や消防車が呼ばれていてもおかしくは無い。もう警察やら機動隊やらが駆けつけているのなら、まだ望みはある・・・!

「あなたの言う通りなのよ!ブラックジャック!先に外にさえ出られれば、きっと救急車が居る筈でしょう!?望みを捨てたら駄目!もし救急車が出払っちゃってても、警察車両があるんだから、病院まですっ飛ばしてもらえばいいのよ!!」

なるほど警察機関や救急機関の車ならそれもアリなのかと、はじめから自分の車で移動する気満々だったらしいブラックジャックが呟いた。

「いやしかし・・・」

彼が言いたい事は分かる。動けない人二人を運ぶ力は私たちには無いのだ。いや、いけない事は無いが、大変な無理をする事になる。・・・主に私がだ。私を見て言葉を濁したブラックジャックに、私はなんとかするしかないと言おうと口を開いた。・・・その時。

「あの・・・」

今まで私たちの様子を見ていた男性がおずおずと口を開いた。

「俺の事は放っておいて貰っても構いません・・・それよりも彼女とお腹の子を助けてください!どうかお願いします!」

「・・・・・・本当に良いのか。そりゃあ助かるよ。必ずこの人とお腹の子を助けよう」

「・・・っ、ありがとうございます!よろしくお願いします!!」

そのやり取りを聞いた私は開いた口が塞がらなかった。あぁあぁ、よくある台詞だよねそれ。大事な人と子供を守るために犠牲になるっていうその偽善者ぶったお涙頂戴の感動物語ね・・・。そういうのはもうお腹一杯だし、そもそも私はそういうの大っ嫌いなのよ。だからちょっと「黙りなさい!!!」怒りで顔を赤くして急に叫びだした私を見て驚いた二人が揃って目を丸くしていた。

「あなたねえ、そんな自己満足で偽善者に成り下がりたいわけ!?どちらか片方しか助けられない!?世界最高の優秀な医者が二人も居て助けられないって言うの!?とんだ思い上がりね!馬鹿にするのも程ほどになさい!ブラックジャック!あんたは女性を運んで。私はこの男を運ぶわ!見てなさい!私の命をかけてもいい!3人、救って見せようじゃないの!!!そのかわりあんた、私が力尽きたらあんたもお終いよ!」

腹から声を出すように吼えて、私は男を少々乱暴に抱き上げる。突然の事に驚いたのか、男はずっと放心状態のままだ。・・・放心状態のままなのは男だけでは無かった。

「・・・何してるの?お先に行かせて貰うわね」

ぽかんと口を開けたままのブラックジャックに向かって、口元に強がりの微笑を浮かべて見せて鋭く睨み付けると、はっと正気に戻ったブラックジャックはフフフと笑った。

「レディ・ファーストさ・・・」

よく言うわよ!



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