執刀医ブラックジャックによる緊急応急処置手術が始まった。
私は助手として彼の横につく。あたりが薄暗いため、彼が持って来た懐中電灯で手元を照らしながらの作業となる。

「本来なら心拍数に注意と言いたいところだが、こんな状況じゃあ無理だろうな。出来るだけチアノーゼに気をつけながらショック状態に注意してくれ」

「わかった」

「では始める。・・・局部麻酔」

麻酔を手渡して、まずは折れてしまっている腕や足の応急処置をする。ここではあまり丁寧な事は出来ないので本当にただの応急処置だ。骨の仮固定をしてそれで終わり。深い切り傷があるところは縫っておく。これで一先ず凌いだと言ったところか。まあこちらはとりあえずここを脱出したら何とでもしようがある。壊疽が見られなくて良かった。
お次に折れているであろう肋骨の確認。こちらは肺に突き刺さっている可能性があるので慎重な作業が必要だ。胸を開いて各肋骨を点検。・・・やはり折れた肋骨が肺を圧迫していて、一部は刺さってしまっていた。

「・・・こいつは少々厄介だな」

「下手には触れないわね」

「そうだな。仕方ない、一先ずこの肋骨が動かないように固定して、上から覆ってしまおう。ここは今はそれ以上は出来ない」

ブラックジャックの手には迷いは無かった。慎重にだが迅速で無駄が無い。
集中して作業を続けるブラックジャックの汗を拭いてやる片手間に、私は患者の容態と背後で横になっている女性の様子を気にした。今のところどちらも異常無し。
もう一度視線をブラックジャックに戻して、彼の手元を注視する。いつ見ても合理的で鮮やかだ。たまにこうして彼の技術を盗み見るのは本当にいい勉強になる。
ブラックジャックにとっては永遠のように感じていたかもしれないが、私にとっては一瞬にしてオペは終わりを向かえた。
手袋を外しながら「さすがはブラックジャックね。お見事」と賛辞の言葉を述べる。「あまりにも鮮やかなものだったから注視してしまったわ」素直に褒める私を意外に思ったのか、ブラックジャックは目を丸くさせて「ああ・・・・・・」とうわ言のように呟いた。

「おい、お嬢さん。手術は一先ず成功だ。・・・後は目が覚めるのを待つばかりって所だな。早いところここを脱出してちゃんとした設備のあるところで手術をしたいが、今はまだ動かさない方が良いだろう」

ブラックジャックは女性に向かって呼びかける。女性は「本当ですか!?良かった・・・良かった・・・!!」と再びしゃくりを上げだしたので、私が慌てて宥めに入った。妊婦の体にあまり負担をかけたくない。背中を優しく撫でてやりながら、私は顔だけをブラックジャックの方に向けた。「・・・そうだあなた、外はどんな様子だった?犯人はまだ捕まっていないのかしら」

「外は厳戒態勢って所だろうな。おれが来た頃はそんなでも無かったが、全包囲されるのも時間の問題だろう。そう言えばさっき拡声器で犯人に告ぐ・・・ってのが聞こえてきていたから、もう全包囲されているのかもしれないな」

「つまり今交渉段階って事ね・・・。あまり状況は良くないわ。この建物だっていつ倒壊するか分からない。早く脱出したいけど人手も欲しい・・・。・・・私、さっきの所に戻って誰か人を呼んでこようかしら」

「いや・・・無駄だろう。あんた、他の人たちに外に避難するように言ったんだろ?もう既に避難済みだろうよ」

「・・・・・・し、しまった」

やっぱり最初から助手を一人連れてくるべきだったか。この辺りにこんなにも人が居ないと思って無かったし、完全に判断ミスだった。

「全く・・・おれが来たから良かったものの、あんた一人でどうする気だったんだ」

サァッと血の気が引いた私の頬をつつきながら、ブラックジャックは呆れたような溜息を付いた。

「本当に・・・重ね重ね感謝するわ・・・。これじゃあ初めから私が折れていた方が安くついたかも」結局借りを作ってしまった事に気が付いて私は溜息を吐く。その溜息を受けて、ブラックジャックはフフフと笑った。「だから言ったろう・・・帰ったらすぐにでも返してもらうからな」とんでもない額を請求される事は間違い無しだ。通帳の残高を思い出して身震いした。暫くはジリ貧生活を送らなければならないし、もっと客を取って働かなければならないだろう。待てよそうだそもそも私のこの通帳の残高では釈放に手を回してもらったところで破産するじゃないか!本当に鬼かよこの男・・・・・・。
支払いは暫く待ってもらうようだな・・・。
頭を抱え始めた私を見ては更に可笑しそうに笑うブラックジャックに殺意さえ沸いた。ここから出たら覚えとけよマジで。



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