・・・おかしい。ここはあまりにも静か過ぎる。
最初にいた棟では人の声や瓦礫を撤去する音、大勢の人間が歩く足音など聞こえてきていてわりと賑やかであったが、ここはまるで深夜の病院を歩いているみたいに静かだった。さっきの看守の話では、動ける人は皆撤去作業をしているとの事だったが、一体どこまで撤去作業をしに行っているんだ?
もしかしてそのまままた別の棟に行ってしまったのだろうか。
静かな事でまた思い出したことがあるが、そう言えばあの爆破の犯人達は一体どこに行ったんだろうか。看守室長であればここからは確か遠かったはずだから、鉢合わせる事は無いんだろうけど。用心はするに越した事は無い。物音に注意しよう・・・。
そう思いながらも慎重に進んでいくと、かすかにすすり泣く声が聞こえてきて、私はその声を頼りに走った。

「どこですか?どこにいますか?」

声をかけながら走っていると、私の声に気が付いたらしいその声の主が「助けてください!ここです!」と悲鳴のような声を上げた。声の主は女性だった。私は安堵の溜息を吐いて、再び走る。思ったとおり、取り残された怪我人がまだいたのだった。

「・・・はあ、はあ、どうしました、怪我をされましたか?私は医者です。見せてください」

すぐに声の元まで辿り着いた私は、大きなお腹を抱えて座り込んでいる女性を見つけた。私が来た事に気が付いた女性はしゃくりを上げながら「この下からっ、彼の声が・・・ひっく、聞こえてっ・・・!」と一生懸命に喋っている。「さっきから呼び、かけてるけどっ、返事が無くなって・・・!ひっく、わた、私・・・!」妊婦なのだろう。お腹をかばうように抱きしめたままの女性は涙を拭う事もしなかった。あんまり泣いては脱水症状になってしまうかもしれない。彼女のお腹の子も心配だが、瓦礫の下のボーイフレンドを先に何とかしなければならないようだ。

「この人をっ助けてください!お願いします!」

「大丈夫ですよ。その人から返事が無くなったのはついさっきなんですよね?まだ助かります。まずは人を連れてきて、その瓦礫を撤去しましょう。あなたは危険ですから、瓦礫から離れていてくださいね。立てますか?」

「・・・だめ、立てない・・・!!」

腰が抜けている事に今気が付いた様子の女性がパニックを起こしかける。私はあやすようにそっと女性の体を抱きしめて優しく背中を撫でた。「それじゃあそのままそこに居てくださいね。大丈夫です。すぐに戻ってきますから」
しばらくそうしていると、女性は段々落ち着いた呼吸を繰り返すようになった。しゃっくりも止まったようだった。よし、これで一先ずは安心だと女性から離れると、私の耳が何やら叫び声を拾った。

「・・・?」

「どうしました・・・?」

私の顔を見て不安がる女性に「しっ」と口元に人差し指を立てて静かにのポーズをとって、私はさらに耳を澄ませた。

「〜〜!・・・・・・花子ー!!!!七市野!!!花子!!!は!どこにいる!」
そこにいるはずがない、しかし聞きなれた男の声を聞いて、私は咄嗟に叫んだ。「私はここよ!!!!」私の声を聞きつけた男が走ってきたのか、足音が近付いて来た。崩れた壁の影から姿を現したのは、想像通りの男・・・ブラックジャックであった。

「ブラックジャック!なぜここに!」

「花子!無事か!ここで爆破テロがあったとニュースで見たんだ」

「そうじゃない!しばらく来るなと言ったのに!!・・・でも助かった・・・丁度良かったわ。手を貸して。この下に人がいるみたいなの」

余程慌てて走ってきたのか、はあはあと息を切らしたブラックジャックは額の汗を拭った。

「・・・患者には反応があるのか」

「さっきまであったみたいだけど、ショックか貧血で意識を失っている可能性は高いわ。慎重に、けれど迅速に瓦礫を退かしましょう」

無言のまま頷いたブラックジャックと二人で瓦礫を退かす。幸いにも大き過ぎる瓦礫も無く崩れそうな所も無かったので、作業は順調に進んだ。

「見えた!手が見えたわ!」

「もうひと踏ん張りだな。そら、そっちを持て」

そう言いながら作業を続ける。人の手がかりを見つけた後は早かった。手が完全に露になると、次いで頭、背中、腰、足とすぐに発掘して、完全に全身が露になった。
うつ伏せで倒れた状態の男の顔を見て、女性が「コウスケさん!」と叫んだ。彼女のボーイフレンドで間違い無さそうだ。再び泣き出した女性が男性に手を伸ばしたので、私は慌てて止めに入った。「触ってはだめですよ。まだどこがどうなっているのか分からないので。あまり動かしたくないのです。あなたが探しているのはこの人なんですね?・・・もう大丈夫、この人は助かりますよ」

女性を宥めている横でブラックジャックが男の脈を計って頷いた。

「彼女の言う通りだ。彼は助かりますよ。・・・見たところ酷い出血だ。左腕は切断、肋骨が折れているかもしれない。内臓破裂の可能性があるな。それから頚椎・腰椎を痛めている可能性もある。こいつぁ高いよ・・・。五体満足で助けるなら、最低でも5千万だな」ご、ごせんまん・・・!?ぎょっとする私をよそに、女性はしゃくりを上げながら「払いますから!」と叫んだ。良い返事にニヤリと笑ったブラックジャックは、自分のバッグから道具を取り出して「花子、その女性を少し休ませてやれ。今ここで応急的だが手術をする。・・・あんたその鞄の中身は何が入ってる?」と私に問う。簡易ベッドからシーツを剥ぎ取ってきて、指示通り女性を横にならせてから私は自分のバッグの中を確認した。

「私は未開封の飲料水500mlに、メスなどの手術道具類一式と消毒一瓶、手袋が二組に抗菌服、ガーゼ、麻酔二本ね。・・・・・・ああそれと簡易無菌室もある。・・・どうりで重いと思った」

「そうか。まあ拘留されていたにしては上出来だな。・・・おいあんた、この男の血液型は?」

「Bです・・・」

「よし、花子!それじゃあオペを始めよう」



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