何やら廊下が騒がしい。

「おい!」

「止まれ〜!」

「抵抗するな!」

なんだいなんだい、脱獄でもしようとした人がいるっていうの?粗末なベッドで寝転がって特にやることも無くうだうだとしていた時の事だった。暫く私はその騒音に耳を傾けていたのだが、キンッという小さな金属音が聞こえてきた瞬間、咄嗟にベッドの下へ転がり込んだ。直後激しい爆発音。・・・恐らく手榴弾だろう。耳を塞いでいても鼓膜を震わせるような爆音と、ガラガラと瓦礫が崩れるような音。次いで人々の悲鳴が聞こえてきて、何やら不届きな連中が暴れているらしかった。
怒声と悲鳴が交差する。怒声はすぐに聞こえなくなった。犯人(恐らく複数なので犯人達と言う方が正しいかも)は別の場所に移動したらしい。しかしまあ、派手にやったものだ。脱獄って言ったらもっとこう静かにコソコソやるもんなんじゃないのか。映画で見るものとは全然イメージがかけ離れていて、私は戸惑った。
混乱の中しばらく震えていたが、だんだんと落ち着いてくると外の様子が気になってきて、のそのそとベッドの下から這い出した。

「・・・!」

壁は崩れている。爆発は何度かあったみたいだ・・・。
そろりと部屋を出ると、まるで阿鼻叫喚の世界が広がっていた。崩れた壁と、すすり泣く声や呻き声、火薬と血の匂い・・・。
とにかくまずは動ける人を集めたり応急手当出来る人を探さなければならないだろう。私は怪我人の状態を見ながら廊下の端から端まで歩いてみた。何てことだ。即死8名、重症35名、軽症20名・・・・・・。犯人達は一体何のつもりなのだろうか・・・。いたずらに人を傷付けて、一体どういうつもりなの?
幸いにも看護士経験のある人が数名いたので重傷者から順番に応急手当をしてもらって、動ける男性諸君に退路を作るための瓦礫の撤去及び救助活動に当たってもらった。極悪人ばかりの囚人達であるが、性根まで悪くないやつらが多かったのが救いだった。彼らは私の指示に眉一つ動かさず従ってくれた。緊急事態ならお互い様である。ちなみに手を貸そうとしないやつらも少数いたが、手伝ってくれる囚人にどやされて瓦礫の撤去をさせられていた。一番の重労働に連れて行くとは・・・。まるでたこ部屋に連れて行かれる奴隷を見送る気持ちで彼らを見送っていると、どたばたと一人の看守が走ってきて、押し付けるように私に鞄を手渡した。それは私が持っていた鞄で、中には捕まった当時持っていた医療器具がそっくりそのまま詰まっていた。

「緊急事態であります。助力願えないだろうか」

息を切らしながらも力強くしっかりとそう言った看守は額から血を流していて、彼も被害に遭ったということは他にも怪我人が多く居るのだろうと連想した。まあ、そりゃそうだろうな・・・こんなテロ起こす理由なんて刑務所側か囚人の誰かに恨みがあるからに決まってる。

「ええ・・・引き受けるわ。その代わり相応の報酬を貰うわよ」

「構いませんとも」

「言ったわね。覚えてらっしゃい。誓約書も書いてね」

鞄から適当な紙とペンを取り出して、今ここでと誓約書を書かせる。こうでもしないと後でごねられても困るし。
早く救助活動に移ってほしい気持ちが駄々漏れの看守はややイラつきながらも制約の言葉を書き殴った。「サインと判子・・・は無いから、血判でも貰おうかしら」その様子を眺めながら言うと、「非常事態だぞ!!」と怒鳴られるが、私は動じない。

「良いからやりなさい!それが済んだらさっさと救助活動を手伝う事ね!」

イラついているのは何もあなただけではないんだ。急に声を張り上げた私に怯んだのか、看守は額の血を親指で拭って紙に押し付けた。赤黒く変色した血判を見て満足した私は紙を鞄に仕舞い込んで「良いでしょう。ではさっさと行きなさい!!」と瓦礫撤去班の方を指差す。看守は来た時と同じようにどたばたと走って行った。
医療道具がぎっしり詰まった鞄を抱えなおして、私は重症患者の容態を確認しに向かう。
体の表面積の半数以上をやけどしてしまった人は残念ながらここでは命を救うことは出来ない。包帯も全員にいきわたる分はない。私は看護班に首を横に振って見せて、別の患者の元に急ぐ。崩れた瓦礫によって手足を潰されたりした人は今出来る範囲での応急処置で命は助けられる。脱出までの時間がどれだけになるかわからないが、早ければ手足も無事に助かるだろう。まずはその患者達に簡単な応急処置を施した。局部麻酔を打って、千切れかかっている部分を綺麗にして再度繋ぐための手術が出来るように処置していく。一通り手術が終わると、私は別の場所に移動する旨を伝えた。まだ怪我人はたくさん居るだろう。
瓦礫撤去班のリーダー格の男に、退路が確保出来次第全員避難するように指示をすると、私は隣の棟に向かった。



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