私はしがない町医者であった。
しがないとひとえに言ったら語弊があるだろう・・・。私は正式な医者でも無いしワケアリの患者だけを受け入れる闇医者だ。派手な事は好まない。法外な治療費も取らない(ただし、私もリスクを背負う分、その分の費用は取っているので保険の利く普通の病院とは大分違う)。
私と同じようにモグリの医者をやっていて、法外な治療費を取るが外科医としての腕は右に出るものはいないと噂されるブラックジャックという男のおかげで、私の影は若干薄くなり多少のオイタは見逃された。
さて、そのブラックジャックという男だが、実は私の旧友・・・というか、腐れ縁のような男である。医学生だった頃に些細なきっかけで縁を持ち、特に親しいわけではなかったのだが、そのままずるずると微妙な関係を続けてきて、今に至る。あの男は時たまふらっと私の前に現れては、気の済むまでからかって去って行く。まるで蜃気楼のようなあの男は、本当に掴み所が無くて、私は張り合うようにツンとした態度で接してきた。周りから見たら犬猿の仲とでも言うのだろうか。まあ、そんなような関係であった。

「どうだい、まだ気は変わんねえのかい」

「何回来たって答えは同じよ。ご苦労様でした」

最初にこの男が来てから丁度1週間。いつかの時のように呼ばれて面会室に行くと、やはりと言うか何と言うか、ニヤリと悪人面で笑うブラックジャックがそこにいて私は溜息を吐いた。そして開口一言目でそう言われて、私はピシャリと言い放つ。椅子に座ろうともしない私を見上げて「まあ折角来たんだ・・・ちょいと世間話にでも付き合ってもらおうか」とブラックジャックは暗に椅子に座れと促した。まあ暇なのは確かである。彼の気が済むか私が飽きるかしたらこの面会は終わり。大人しく椅子に腰掛けて「・・・で?」と話を催促した。「その世間話って言うのは?」

「今回あんたが捕まった理由をまだ聞いてないんでね。今後の参考のためにも聞いておきたい」

口元に笑みを浮かべながら指を組んで前のめりになるブラックジャック。ふん、どうせそんなこったろうと思ったわよ。

「あなたも知っての通りだと思うけど・・・私は真っ当な病院にかかれない人のための外科医をしているでしょ。だから、たまにいるのよ。こうして嫌がらせをしてくる人が。今回は多分だけど、やくざ絡みだと思うわ。心当たりがあるの。いつもなら余裕でトンズラかますところだったけど、相手の方が一枚上手だったみたいね。それだけよ」

「だからスジモンを扱うんじゃないと言っただろうが。今回の事で骨身に沁みたろう」

言葉だけ取るとただの叱責であるのだが、彼の場合は表情とその言葉が比例していない。そうも面白そうに言われると大変不愉快だった。「それでも私は患者がいる限り、処置をするのよ。もういいかしら?」席を立つ素振りを見せると、ブラックジャックは「まあ待て」と片手を上げた。「そんなにここでの生活が好きなのかい?」
好きな訳ないに決まってる。こうしている間にも患者は私を訪ねて診療所を訪れているだろう。だけどね、「あなたに大き過ぎる借りを作るくらいなら、ここに居た方がずっとマシよ」。本当に私は可愛くない女だ。ブラックジャックは「そうかい」と目を伏せて言うと、「最近ギャングの元頭が収容されたと聞いたよ。せいぜい仲良くやるんだな」と続けた。ほう、この男、一応私の事を心配してくれているようだ。

「そんなのが収容されたとあっちゃああなた、しばらくはここに来ない方がいいわ。何か事件に巻き込まれでもしたら笑ってあげる・・・」

そう言ってふふふ、と笑って見せると、私は席を立った。今度こそお開きだ。ブラックジャックも異論は無いらしい。「じゃあまた1週間後に来るよ」と言い残して部屋を出て行った。


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