「七市野花子。面会だ」

そう言って獄中から連れ出されると、よくテレビドラマなんかで見るような面会室に通された。おおお、初めて入った。警備員が出入り口前で通せんぼして見張っている。
大きなガラスの向こう側に座っている男を見て、私は溜息を付いた。

「フフフ・・・噂通りだったな。本当に捕まっていたとは」

可笑しそうに笑った彼は、立ち尽くしたままの私を見上げて「ざまあみろ」と悪い笑みを顔に貼り付けて吐き捨てた。一言目からそれとは程度が知れる。「本当に忌々しいわ・・・」しかし悪人面の似合う男である。
まあ、旧知の仲ではあるし、わざわざこうして顔を見せに来てくれたのだから、少しくらいは相手してやらなければ拗ねてしまいそうで、私は大人しく椅子に腰掛けた。逆の立場の時に私はここには来なかったのだし。

「あんたはここに何日くらいいるんだ?クク・・・気分はどうだね」

この男はたぶん私の事をおちょくる事が生きがいなのであろう。笑いを隠しもせずに神経を手酷く逆撫でられてイラっとしたが「そうね、1週間くらいだったかしら・・・」と努めて冷静に、律儀に返事を返す。「気分は最高だったわ。あなたが来るまではね」皮肉は忘れずに。男は「おいおい」と言いながら黒と白に分かれた妙な髪をくしゃっと掴んだ。「わざわざ顔を見に来てやったんだ。そんな邪険にする事ぁ無いだろう」「余計なお世話だったみたいね」無駄に整った顔をしているせいで余計に腹が立つ。目を伏せれば男にしては長い睫が影を落とした。

「それで?あなた本当に私をおちょくる為だけに来たっていうの?」

「ああそうだった。あんたの保釈に一役買ってやろうかと思ったんだが」

「結構よ。高くつくでしょう?」

「ああそうかい・・・それじゃあまた1週間後に来ることにしよう。考えが変わったら返事をくれ」

最後にそれだけ言い残すと、そのまま男は帰ってしまった。面会室に一人取り残された私は、「余計なお世話だわ」と彼の出て行った扉を見つめながら呟いたのだった。


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