突然だけど、私は死んだ。
本当に突然だった。外出先でしこたまお酒を飲んで、泥酔状態の上で帰宅途中の事だった。
体が言う事を聞かないだけで頭だけはしっかりと働いていた私は、事のあらましを全てきちんと覚えている。お店を出て、家までたった15分の道のりをふらふらと千鳥足で歩いていた。半分まで歩いたところで、私は足をもつれさせてしまって車道に飛び出してしまった。やばい、そう瞬時に判断は出来たが、先に述べたとおり体は言う事を聞かない。目は真っ先に前方のトラックを捉えていた。こういうときに限って・・・!いつもは全く車なんて通らないじゃない!しかもまさかのトラックかよ!!車道に飛び出した私に、まるでスポットライトのようにヘッドライトがあたる。キィィィィィ!という耳を劈くような(、恐らくブレーキ)音に眉を潜めたが、私にはどうする事も出来なかった。そして私はトラックを見据えたまま、目が飛び出しそうなほど驚いていて顔面蒼白でハンドルを握るトラックの運転手の顔を見つめながら、体にとてつもない衝撃を受けたのだった。その瞬間、息が詰まった。体が軋む音がして、すぐに激痛に襲われて、そしてそのまま意識を失ってしまったというわけだ。

次に気が付いたときは真っ暗な世界の中だった。ぽつんと私は一人で、立っているのか、横になっているのか、逆さまになっているのかも分からない状態で居た。まず最初に私は事故にあったのだと思い出した。しかし痛みは無い。ああ、私は死んだんだなとその時悟った。あの世への迎えが来るまでに人生を振り返ってみようと、私が持つ一番最初の記憶を呼び覚ました。優しいが厳格な父親と聖母のごとく暖かい母親に挟まれて横になっている記憶だ。
一番最初こそはぼちぼち幸せであったが、なんともつまらない人生だった。両親は早くに他界してしまうし、身寄りも兄弟も居ない。私が死んだら悲しんでくれるのは数少ない友人くらいであろう。他には・・・いつも行く喫茶店や食堂の人が「そう言えばあのお客最近来ないな」と思う程度か。
あ!そう言えば家賃・・・それに部屋の片付け・・・大家さんには迷惑をかけてしまうなあ。住人が死んで、しかも身寄りも無いとなれば、家財やら何やらは処分してもらう事になる。大して金目のものが家にあるわけじゃないのに申し訳ない・・・せめて私の微々たる貯金を受け取って欲しいがそんな事は可能なのだろうか。
さて、あの世へのお迎えはいつ来るのだろう。この何も無い空間で待っているのはもうくたびれた。早く三途の川を渡らせてくれ。まさかこのまま迎えが来ないままずっとこの空間で彷徨うわけじゃあるまいな?そしたら私は浮遊霊になるの?
ああ・・・両親が私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる・・・お迎えはすぐそこかな。
そして私は完全に現世への未練を断ち切るために目を瞑って、すんと鼻を鳴らした。
覚悟を決めて目を開くと、飛び込んできた光に目を焼かれた。

「えっ!?」

思わず声に出すと、ガタンという音がして人が駆け寄ってくる音がした。
目が慣れない。一体何が起こっているの???


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