初めてポアロに行った日から丁度一週間。土曜日。私はまたここに来ていた。
噂のイケメンウェイター目当てで店に来る女性客という立場で。扉をくぐって中に入ると、前回の時同様ウェイトレスがお冷とお絞りを持って席に案内してくれたので、私はそのままカフェオレを頼む。いつも同じものを頼むのは、早く顔を覚えてもらいたい時の常套手段だ。
しかし彼に対しては必要なかったのだろう。正直私は少し彼の事を見くびっていた。程なくしてカフェオレを片手にやってきたイケメンウェイターは、私の顔を見るなり「おや」と声を上げたのだ。

「本当に来てくださるなんて・・・ありがとうございます。正直、僕のような顔がタイプでは無いお客さんは最初の一回だけ・・・っていうパターンもわりと多いので・・・」

「あら・・・私のことを覚えていてくれたんですか?こんなイケメンに覚えられてるだなんて光栄だわ」

「あなたのような素敵な女性を忘れるはずありませんよ・・・それに、人の顔を覚えるのは得意な方なんです」

なるほど頭は切れる訳だ。流石は探偵を名乗っているだけはあるし、コナンくんが怪しむのも頷ける。私は愛想笑いを返すと、カフェオレを受け取って「通う価値は十分あると思うのに、そのミーハーなだけの人たちは残念ね」と言った。



「ただいま」

工藤邸に帰ってすぐ、私は昴さんによって身体検査をされた。突然の事に頭がついていかず、されるがままになっていると、あっという間に下着姿にされていた。それも玄関でだ。思わず私は平手打ちを繰り出していた。やすやすと避ける昴さん。舌打ちを隠そうともしない私にお構い無しで昴さんは私の背後に回り、私の両脇から腕を出して脱がせた服を調べる。・・・どうやら異常無しのようだ。だが昴さんの手は止まらない。私の頭、アクセサリーを調べて、次いで履いていた靴まで調べて、漸く溜息を付いた。そしてキス。「んっ」歯列をなぞって舌を絡めて、吸う。官能的なちゅっという音がやけに耳に響いた。だからここ玄関なんだって。
再び繰り出した平手打ちをまたしてもやすやすと避けた昴さんは、何事もなかったかのように言う。「これからあの男に接触した日は必ず帰ってきてから身体検査をする事。相手にしているのは例の組織の人間かもしれない事を忘れるな」

「・・・・・・」

ご尤もだった。
私は口の中の唾液を飲み込んで、頷いた。

「今日の話はお風呂入ってからするわ。まずはこの格好でこの場所に居るっていう事を何とかするのが先決でしょ」

「おや・・・私は楽しい状況でしたが」

同意を得られなかった私は黙ってお風呂場へと向かった・・・。



「あの男、やはり只者じゃないわ」

お風呂から上がると、丁度昴さんが料理を運び終えたところだった。二人して席に着いて、手を合わせてからお茶を一口飲んで、私はそう切り出した。

「一週間も時間を空けたのに私の顔を覚えていたのよ。毎日毎日いろんな人が来る場所で、しかも週末の昼間は彼目当ての客がひっきりなしにやってくる・・・そんな場所でね。人の顔を覚えるのが得意だとか言っていたわ。もしかして私の正体もバレているのかも?いやでもまだコナン君と知り合いだとかは知らないみたいだし、一々来る客全員を調べる事なんて無いでしょうね・・・。けど、自称探偵も頷ける・・・。それなりの記憶力と推理力は持っているようね。あまり甘く見ない方がいいかも」

「そうでしょうね・・・。私はその男がどんな男なのか見たことが無いのでなんとも言えませんが・・・。・・・尾行とか、されていませんよね」

「当たり前じゃない。いつも背後には気をつけているつもりよ。彼、私の所在地どころか乗っている車すら知らないと思う」

「そうだと良いのですが」

「まあ最も・・・既に私の身元や目的がバレていると仮定して、彼の仲間に尾行や身辺調査をされていたら敵わないけれどね」

肩をすくめてから、料理を口に運ぶ。ああ・・・おいしい・・・・・・。今日も一日働いて来て良かった・・・。
私の様子を窺って少しだけ微笑んだ昴さんは、同じように箸を進めながら考える素振りをする。

「今の所はまだ大丈夫だと思います。なんせ通い始めて二回目ですし、特に会話などはしていないんでしょう?」

「ええ。当たり障りの無い会話しかしてないわ。取り合えず私の方はコナン君の行動待ちって感じかしら。一応あの子に私は毎週土曜日の昼過ぎ頃にあそこに通う事にするって言ってあるし、・・・あの子、あそこで私に出会ったら声かけても良い?って言っていたしね」

「そうですね・・・あくまでも今は現状維持で良いかと思います。相手の方が不審がって勝手に調べてくるのが理想ですからね。それまでに少しは仲良くなっておいた方が良さそうですね」

「そうなのよ。それ。どうやって仲良くなるかが問題なのよね。それとなく映画にでも誘ってみるとか?」

「それはまた随分と積極的ですね?まるでデートじゃないですか」

「デートなのよ!私は彼目当ての客よ?とりあえず後何回か通ったら誘ってみる事にするわ。言い訳はそうね・・・私みたいな女一人で見に行くには少し抵抗がある・・・とか言ってアクション映画に誘うとか?」

「アメリカモノだけは避けることですね」

「なんでよ?」

「その気になられたら困るからでしょう」

昴さんの言うその意味に気が付いて、私はサラダのプチトマトを摘み損ねた。アメリカモノにはベッドシーンがツキモノだ。つまり簡単に甘い雰囲気を作るのは良くないと。もっと言うならばただの昴さんの嫉妬であった。・・・ただの、と言うには少し語弊があるが。

「・・・そうね」

何とか声を絞り出して、私は今度こそ、とプチトマトを摘む。
言った言葉を正しく理解して返答をした私に満足した昴さんは、満足気な顔をしていたが、赤い顔を見られまいと俯く私には見えていなかったのだった。



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