クチナシの監視下に置かれてから、二度目の配達の日が来た。その日の朝も挨拶から次に言われた言葉が「今日は配達の日だろう?」だった。私は今度こそ普通に「そうですよ」と返事を返して、一通りの家事を終わらせてから買出しに出た。
今回クチナシは私の後を着いては来なかった。それは出かける前にくれぐれも気をつけるようにと念押しされた事から察した。自分は傍に居ないから、面倒ごとは起こすなと。そう言うことだ。どうやら今日はわりと重要な仕事があるらしい。スカル団のボスの行動が最近妙なので、警戒しているのだと言う。
グズマやプルメリがどこで何をしていようが、正直私には関係のないことだ。スカル団と私の間にあるのはあくまでもビジネス。彼らが私に手を出してくる事も無ければ、私も警察などに彼らを売る事も無い。クチナシにだって、それは分かっているはずだ。下っ端団員とは多少交流はあるが、グズマたちには面と向かって会った事すらない。そんな程度の関係なのだ。私達は。


いつも通りに配達を済ませて、私は何事も無く屋敷を出た。
うんざりするような雨にはもうすっかり慣れてしまった。そしていつも通りローリングストーンへと辿り着く。

「こんばんは」

「ああ・・・ねえちゃんか。こんばんは」

ニヤリと笑いながら、私達は他人の振りをする。そんな必要は無いのだが、何故だか外ではそうしなければならないような気がしてしまうのだ。きっとクチナシもそう思っている事だろう。同じ事を思って、暗黙の了解のように話を合わせている事実に、少しくすぐったいものを感じた。
席について、今日こそはとクチナシと同じメニューを頼む。

「ほお・・・やっとこの味が分かるようになったか」

「いえ・・・そう言うわけではないんですが・・・。いつもあまりにも美味しそうに食べているものだから、たまには私も挑戦してみようかなって、思っただけで」

「そうか。それは良いことなんじゃねえのか・・・随分と真っ当で前向きだ」

「・・・ありがとうございます」

それが本当に食べられるかどうかは別として、だ。後からそう付け足したクチナシに、私は手厳しいですね、と笑った。

「・・・いただきます」

「いただきます」

同じ料理が目の前に出揃ったところで、私達は二人揃って手を合わせた。いつものペースでぱくぱくと料理を食べ進めるクチナシを尻目に、私も恐る恐る箸を伸ばす。伸ばした先はまだクチナシに食べさせられた事の無い唯一の料理。そっと口に入れると、今までの苦手意識が全て吹き飛ぶような気がした。

「おい、しい・・・だと・・・!」

「ほお、ねえちゃんはそいつがお好みかい?」

珍しそうに目を丸くしたクチナシは、私の顔を覗き込んで、ニヤリと笑った。悪戯っぽく光る深紅に見据えられて、私は少し居心地が悪くなった。

「それが食えんのなら、他のも食えるだろう」

それが嘘か本当かは分からない。私が箸を進めなければ一生わかりっこない問題である。
今度は期待に満ちた色に変わったその瞳を見つめて、私は他の料理に手をつける。

「・・・ん、おいしい・・・!」

「ほらな。良かったな・・・これで、大人の仲間入りだ」

何を基準として大人の仲間入りだと言っているのかは謎だが、些細な事でも一つ認められるのは嬉しかった。今度は喜びの色に変わった彼の瞳を見て、案外彼はころころと表情を変える人なんだと思った。目は口ほどに物を言うというが・・・それの良いお手本と言えるだろう。
そして全ての料理を食べ終わって、それからぼんやりとどこかを見つめたままのクチナシが、いつもの言葉を言う。「・・・雨の匂いがするな」
「そうですか・・・もしかしたら明日は雨が降るのかも知れませんね」最早定型文と化してしまったその言葉は、まるで二人だけの秘密の合言葉のようで、やはり私はくすぐったい気持ちになったのだった。


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