「七市野!!」

「花子!!」

多くの生徒が運び込まれて大忙しのマダム・ポンフリーがいる医務室に、スネイプとダンブルドアが駆け込んできた。

「二人とも!お静かになさってください!」

マダム・ポンフリーに窘められた二人は、少しばかり肩を落として目当ての人物を探す。

「ミス・七市野ならそこですよ。石化はしていないようですが、まだ眠り続けています」

「そうか」

ダンブルドアはかなり落ち着いて礼を言ったが、スネイプは気が気ではなかった。少しかさついた自分の手を撫で回しながら、ダンブルドアと一緒に花子が眠っているベッドへと近づく。
目を瞑った花子は、本当に眠っているかのようだった。大きく上下する胸を見ると、深く呼吸を繰り返しているのがわかる。

「なにが起こったかわからんが・・・花子はハーマイオニー・グレンジャーと一緒に発見されたそうじゃ」

ダンブルドアはおお・・・かわいそうに、と花子の前髪を撫で付けながら言った。スネイプも花子に触れたいと思っていたのだが、かわりに自分の手を撫でて、気を落ち着かせるために左手に右手を添える格好をとった。スネイプは自分の中の焦燥感を、自分の手をいじりたくてもやもやしているのだと思い込んで、冷静に言葉を吐く。

「しかし、校長。ミス・グレンジャーは半石化でミス・七市野は気を失っただけというのは、どうにも違和感を感じますな」

「そうなのじゃが・・・花子が目を覚ますまで何とも言えぬ。この子ならば何が起こったのか見ているかもしれぬのじゃが」

ダンブルドアは何かを思いついた様子で「後は頼んだぞセブルス」と言い残すと急いで医務室から出て行った。
スネイプは花子の手をそっと握ってみたが、彼女が目を覚ます様子はなかった。


わたしが次に目を覚ましたのは、あれからどれくらい時間がたったかわからなかったけれど、真っ暗でしんとしていたので、夜中であることはわかった。
体が固まっていて全身が痛かったので、ずっと眠っていたような気がして伸びをしようと手を上げた時に、初めてわたしの左手に重しがついていることに気が付いた。左手に目を向けると、白い何かが見える。目を凝らすと、それは重しではなく、黒く長い袖からはみ出した指だった。それを辿っていくと、艶やかな黒髪が目に入る。――スネイプだ。
スネイプはベッドの淵に顔を押し付けており、空いているほうの腕を枕にしていた。どうやら眠っているようだ。土気色の顔を覗き込むと、いつも厳しく光っている黒い双眸は閉じられている。意外と長い睫が目の下に影を作っていた。
そこまでスネイプを観察して、わたしはハッとした。「!・・・そうだ、ハーマイオニー!」
わたしが声を上げたところで、スネイプは突然がばっと起き上がり、そのままの勢いでわたしの事を抱きしめたけれど、わたしはそれ所ではなかった。

「スネイプ先生!ハーマイオニーが!」

すると、スネイプはいつもやるようにもごもごとはっきりしない発音で「心配した、よかった」とぼやいてからばつが悪そうにわたしから離れた。そして、「ミス・グレンジャーはそこだ」と目線で示した。

「ああ・・・ハーマイオニー・・・!!」

ベッドから飛び降りてハーマイオニーの元に駆け寄ると、彼女は最後に見たままの格好で寝かされていた。

「ミス・七市野・・・何があったのか、聞いてもよろしいかね」

「わからないわ!ハーマイオニーと図書室で調べ物をして、それからハーマイオニーは、目を瞑って走れって!それから何か言おうとしていたけれど、途中で、それでっ」

取り乱したわたしを落ち着かせるように、スネイプはわたしの頭に手を回すと、そのまま先ほどしたように自分の胸板に押し付けた。

「落ち着きなさい」

やけに冷静なスネイプに苛立った。でも、思いの外分厚いスネイプの胸板に頭を預けて、彼の心臓の音に耳を傾けると、だんだんと気持ちが落ち着いていった。・・・ああ、これは昔怖い夢を見た時によくお母さんがしてくれたっけ。

「何があった」

そのままの体勢でもう一度問われ、わたしは今度こそ落ち着いて答えた。

「緑色の二つの眼を見ました。あとは、覚えていません」


自分のした行動に、今更ながら赤くなった顔を隠すように医務室を出て、スネイプは思考をめぐらせていた。
“緑色の二つの眼”・・・そんな、まさか、いや、だが、なぜ?


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