「クチナシさん、今日はちょっとお買い物に行きたいのですが」

「ああ・・・スカル団のか・・・」

食後のコーヒーを勧めてから、今日の予定の事を切り出した。
そろそろ必要なものを買っておかないと、今回は日用品が多めだったから当日では間に合わない。クチナシは最初の約束通り、それを咎める事はしなかった。

「マリエのデパート行って来ます。時間はそうですね・・・10時〜14時というところでしょうか」

「日用品を買うんだろう?それならデパートよりもちょいと遠くなっちまうが、外れにあるドラッグストアに行くといい。そっちの方が品揃えも多いし安く済む」

お・・・驚いた・・・。何生活感ある事言ってるのこの人・・・・・・。
思っていたことが顔に出ていたのか、私の顔を見たクチナシは何も言わずにそっぽを向いた。いつものかったるそうなポーカーフェイスのまま。気を悪くしただろうか。少しだけ焦って、私は「そっそうなんですね!ありがとうございます!」とお礼を言う。「じゃあ、そっちのドラッグストアに行くので、時間も10時〜16時としておきます」身振り手振りをつけてそう続けると、クチナシは少しだけ笑った。


少々重たくなった荷物を両手に下げて、私は家路に着く。家と言っても帰る場所はマリエにある私の家を通り越した先、ポータウンの入り口にある交番なのだが。ちょっとだけ悲しい思いで自分の家の方角を眺めながら歩いていると、雨の香りが鼻をついた。大して珍しくも無い、その香りだったが、私は足を止めた。両手にたくさんの荷物を持ったまま、果たして傘が差せるだろうか。とりあえず一度荷物を地面に降ろして、腰のモンスターボールに手を伸ばす。雨に濡れても大丈夫な子で尚且つねんりきが使える子がいい。そうして選んだボールを投げようとしたところ、なんと意外なことに目の前からクチナシが歩いてきた。私に気がついたクチナシは軽く手を上げる。

「クチナシさん・・・。・・・見回りですか?」

「ああ、そうだな・・・。誰かさんが大荷物を持って困ってないか見回りに来たのさ・・・」

クチナシはそう言うと私の手から荷物を一つ攫うように取り上げると、その手とは反対に持っていた傘を私の頭上に寄越した。

「困ったのは大荷物だけじゃねえみてえだな・・・。お気に入りの傘を忘れてくるだなんて、どうしたんだ。花子」

「え?!え、嘘でしょ・・・!あれ!本当だ・・・忘れてきちゃってる!?」

クチナシの言葉に驚いた私は思わず自分の両手を見る。果たして本当に私は傘を忘れてきてしまったようだった。うわあ、最悪だ・・・。頭を抱えた私を見て、クチナシは溜息を吐いてから携帯端末を取り出して操作し始める。程なくしてどこかへ電話をかけた彼を見ながら、私は途方にくれた。通話を終えたクチナシは私の頭にぽんぽんと手を置いて「傘はあったそうだ。保管しておいてくれているらしいから、おれが今夜の見回りの時にでも回収してこよう」と言ったので、私は思わず「ほんとうですか!!」と声を張り上げてしまった。大きな声を出してからすぐにハッとして、ボリュームを絞ってもう一声搾り出す。「・・・ありがとうございます」
あの傘は本当に気に入っていたのだ。そんな気に入っていたものを忘れてくるだなんて本当に私はどうかしている。

「とりあえず帰ろう。日が落ちる前に」

「そうですね・・・」

クチナシの傘に入って歩き始めながら答える。彼は私の歩くスピードに合わせて歩いてくれているようで、私が傘からはみ出てしまう事は無かったけど、それでも私は少しでも濡れないようにと出来るだけクチナシに寄り添った。


私はクチナシという男について、少し考えを改めなければならないのかもしれない。


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