今日もまた、私はいかがわしき屋敷に来ていた。いつものようにロズレイティーを頂いて(驚く事に、いつもより少しだけ美味しかった)、屋敷を出て直ぐの事だった。聞きなれた声を聞いたのは。

「やっぱりな。ここに出入りしてるなんて、ねえちゃん一体何モンだ?」

思わず傘を落とした。

「ククク・・・まあ、とりあえずこのクチナシおじさんと勝負でもしようや」

どこかで聞いた事のある名前・・・。どこだっけ。誰にも会わないと思っていた私はよっぽど気が動転していたのか、傘を拾うことも、その名をどこで聞いたのかも思い出す事は出来ず、気だるげに座り込んでモンスターボールを投げた彼を見つめる事しか出来なかった。
深紅の瞳から、今日は目が離せない。
クチナシが繰り出したヤミラミの声を聞いて漸く我に返った私は、咄嗟に一番端のボールを手に取って投げた。



「一度勝負をすれば、そいつがどんな奴かわかるってもんだ」

最後のポケモンをボールに戻したクチナシは、よっこらせっと立ち上がって私に近寄ってくる。勝負の内容は、特に白熱する事も無く、さっきクチナシが言ったようにまるで私の事を探るような気味の悪いものだった。
私の事を心配してオロオロするポケモンをボールに戻して毅然として立ち向かう。勝負の間に既に冷静さは取り戻したつもりだ。どんな事を言われてもうまく言い訳が出来るようにシュミレーションもした。大丈夫。大丈夫。何も咎められる事は無い。
ポケットに手を突っ込んだクチナシは、私の目の前まで来ると、しゃがんで傘を拾い上げる。
あ・・・忘れてた。呆気に取られている私に傘を差して、クチナシはにやりと笑った。「生憎今手持ちがないんでね。身包み剥がそうって言うなら別だが、ちょっと着いて来てくれねえか?・・・すぐそこなんだ」
手を突っ込んでいたポケットを引き抜いて何も入ってない事をアピールするクチナシ。
身包みを剥がす?そんなまさか。面白い冗談を言って自分で満足したのか、彼はクククと笑いながら踵を返したのだった。
ってちょっとまって私の傘!



わりとお気に入りの傘を物質にとられ、私は大人しく後を着いて行った。行き着いた先はポータウンの入り口にある交番。この人まさか私を警察に突き出すつもりなのか?いかがわしき屋敷に出入りしていた不審人物として。

「そう固くなるなよ・・・。ここは交番だが、勤務しているのはおれ一人だし、まあおれの住居みてえなモンだ。それに何も取って食おうって訳じゃねえ」

そう言って扉を開けるクチナシ。本当に賞金を取りに来ただけ?彼の真意は読めない。

「どうぞ」

「お、おじゃまします・・・」

クチナシは入るなりストーブに火を入れる。私は入るなり駆け寄ってきたニャースたちに濡れた手足や顔を舐められて足止めを食らっている。
奥にかけてある上着のポケットを探って財布を探し当てたクチナシが、タオルとTシャツを持って私の元に戻ってくる。じゃれつくニャースを微笑ましげに見やってから、「おい、離れてやれ」と声をかける。ニャースたちは不満そうな声を上げて、漸く離れて行った。

「まず賞金だ。受け取れ。・・・それから、下に下りてすぐのところにシャワー室がある。暖まると良い。着替えといっちゃ何だが、Tシャツぐれーなら貸してやれる。・・・丈はまあ、長い方だ。それからその服も乾かしていけ。おれはちょっと出てくるが、待っているように。今日の晩餐はお預けだが、代わりを用意しよう」

自分の言いたい事だけを言って、クチナシはすぐに出て行ってしまった。
私は言われた事を覚えるのだけで精一杯だった。


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