わたしたちは2年生にあがり、ロンの妹・ジニーがホグワーツに入学した。
ロンの組み分けの時にも思ったが、ウィーズリー家の子供はなぜか全員グリフィンドールになるようだ。きっとあなたの一家はゴドリック・グリフィンドールに寵愛されているのね、羨ましいわと言ったらロンは顔を赤くしてそんなんじゃあないと思うよと言った。
2年生にあがったからと言って、わたしたちに何かの変化があると思えばそうでもなく、変わった事といえば、可愛い後輩たちが出来たって言う事とわたしたちが去年よりも1歳年をとったという事だけだった。

「ハリー、ごめんなさい。わたし、」

「いいんだ。しかたないだろ」

会ってすぐにハリーに自分だけホグワーツに残ってしまった事を謝ると、ハリーはちょっと拗ねたようにだけれど許してくれた。

「ダンブルドアに詳しい話は聞いたよ。君が僕のために怒ってくれた事と、ピープズが廊下にばら撒いた水で、君が滑って転んでっ、マクゴナガルに、こっぴどくしかられたって事をね」

「ア、アルバス・・・!そんなこと言わなくたっていいのに!」

ハリーは不機嫌そうだった顔を笑顔に変えて噴出しそうに言った。
その話はもうしないでほしい・・・。恥ずかしくなって、わたしは俯いて自分の靴の汚れが気になるふりをした。
ハリーたちが帰ってくる1週間前の事なのだけど、大広間に向かう途中でどこから溢れたのかわからない水に足をとられて滑って転んでしまったのだ。丁度近くにいたらしいマクゴナガルがわたしの悲鳴を聞きつけてやってきたのだけれど、「ミス・七市野!なんですか!これは!どうしたっていうのです!」とあらぬ疑いをかけられてしまった。マクゴナガルはわたしが勝手に廊下を水浸しにして勝手に転んだと思ったらしい。ピープズが大笑いしながら通り抜けていかなければ、そのままわたしは文字通り濡れ衣を着せられたままだったに違いない。「ピープズ!あなたの仕業ですか!!」マクゴナガルはかんかんになってピープズの後を追いかけて行った。怒っている時のマクゴナガルの動きの早い事早い事!すぐに姿が見えなくなって、座り込んだわたしは一人取り残された。下着までびしょびしょになってしまっていたけれど、強かに腰と頭をぶつけてしまったわたしはそのまま廊下に倒れこんだ。意識が無くなったわけではない。
自分の惨めさに顔を両の手のひらで覆っていた。

「七市野!どうした!何があった!」

その後慌てて駆け寄ってきたスネイプも同じように水に足をとられてつるりとすべり、同じように腰と頭を強かに打ち付けたところを見てしまった時、わたしは大急ぎで廊下と熱い抱擁を交わした。
落ち着いたところで(スネイプはまだ顔を真っ赤にさせていたのだけど)二人で仲良くマダム・ポンフリーのお世話になったというのが事のあらましだ。
ハリーには最後のスネイプのくだりだけ話すと、「僕もその場にいたらきっと急いで廊下と熱烈な抱擁とキスをするに違いないね」と言って笑い、その日のうちにスネイプの失態は全校に広がってしまった。噂を聞きつけたスネイプにギッと睨まれてしまったけれど、わたしは肩を落として「わたしじゃないですよ、スネイプ先生。ピープズです」と全てピープズのせいにしておいた。(本当はフレッドとジョージがこの件に関しては一役も二役も勝手に買っていたのだけれど。)そのほうが物事が丸く収まるだろうと思って!
案の定スネイプはピープズのことを射殺さんとばかりに睨みつけていくつか呪いをかけていた。Severus、ラテン語で手荒い・厳しい、とはこの事だ。
どうやらハリーとロンも新学期早々電車に乗り遅れて空飛ぶ車でホグワーツまで来た事で、ものすごい剣幕のスネイプから大目玉をくらったらしい。

「ああ、それは災難だったわね」

「まあね」

わたしが哀れみの目を向けると、「でも、ダンブルドアとマクゴナガルがいて助かったよ。彼らがいなかったら、きっと今頃僕とロンはウィーズリー家でモリーおばさんにスネイプ以上の剣幕で怒られていたところさ」とハリーは続けて、笑って見せた。
新学期早々可哀想に。

ハリーがいろいろと問題を抱えていたようだったので、なんとなくわたしは嫌な予感がしていた。
そしてそれはハロウィンの夜に起こったのである。――ミセス・ノリスが襲われたのだ!
その後、立て続けにマグル出身者の子が襲われ続け、生徒たちはなるべく自分の寮で過ごすようになった。

「ねえ、花子。僕たち、マルフォイがスリザリンの継承者なんじゃないかと思ってるんだけど。花子って確かマルフォイの親戚だろ?」

とロンがスリザリンと合同の魔法薬学の授業の時に囁いてきた(ハーマイオニーが小声で「ばか!時と場所を考えなさいよ!」とロンの頭を叩いた。)ので、わたしは気持ち大きめの声で囁き返した。

「ふふ、本当にドラコ・マルフォイがスリザリンの継承者なら、一番初めにわたしが石になってるわ」

聞いた当事者のロンと(ロンを)殴ったハーマイオニーと、おろおろしていたハリーは顔を青くさせ、聞こえていたのか(むしろ聞こえるように言ったのだけど)ドラコ・マルフォイはぎりぎりと歯軋りをして黄色にならなければならない自分の鍋の中身を赤黒く変色させた。スネイプは忌々しそうに「エバネスコ」して、魔法薬をだめにしたドラコ・マルフォイとおしゃべりをしていたわたしたちからきっちり5点ずつ減点した。


「花子、私、ちょっと図書室に行ってくるわ」

ある日、談話室で本を読んでいた時、駆け足で女子寮から降りてきたハーマイオニーにこちらを振り返りもせずに言われた。慌ててわたしも「待って!わたしも行く!」と手に持っていた本を急いで閉じると、急いでその後に続いた。丁度今読み終わった所だったので、返しに行きたかったのだ。

「・・・そう?それじゃあ、一緒に行きましょう」

最近の事件の事もあって、ハーマイオニーはかなり慎重だった。

「花子、あなたは下を向いて私の後ろについて来て。いい?絶対にきょろきょろしたり、先に行ったりしないでね」

「?ええ」

ハーマイオニーは片手に手鏡、そしてもう片方の手にわたしの手を掴んで歩いた。
警戒するのはわかるけれど、下を見て歩けとかハーマイオニーの手鏡の理由がよくわからなかった。わたしは彼女に大人しく従って歩きながら思った。まるで悪い事をしてお母さんに連行される子供みたいだ。
何事もなく無事に図書室について、わたしは借りていた本を返しに行った。次は何を読もうかと思ったけれど、落ち着かないハーマイオニーの様子が気になってそばにいることにした。

「これだわ!」

ハーマイオニーはお目当ての本を見つけたらしく、中を開くと羊皮紙の切れ端に何事かをメモした。

「・・・バジリスク?」

「そうよ、花子。スリザリンの怪物の正体はこれだったのよ!」

手早くメモを書き終えると、それを握って「早くハリーたちに知らせなきゃ!」と大股で図書室を出て行こうとしたので、わたしは慌ててついていった。(少々声を荒立てていたので、マダム・ピンスの鋭い視線がわたしたちを突き刺していたのだけれど、ハーマイオニーは気付かなかったようだ。ちなみにわたしは“前科持ち”だったのでちょっとばかり敏感だった)
図書室を出てすぐ、廊下の曲がり角を鏡で確かめたハーマイオニーは一瞬ハッとした様子だったけれど、口早に「花子!目をつぶってまっすぐ走りなさい!すぐに」と言いかけて、言葉の途中で止まってしまった。

「・・・ハーマイオニー?」

揺すってみたが、まるで石になったかのように動かない。まさか!

「フィニート!ハーマイオニー!」

杖を出して魔法解除の呪文を唱えたのだけれど、何かの気配を感じて上を見る。
ああ、ハーマイオニーの言う事を真っ先に聞いておけばよかったのかもしれない。(それでもきっと、ハーマイオニーのことを置いていく事なんて出来なかったけれど。)

わたしは、見開かれた緑色の二つの眼とばっちり見つめ合ってしまったのだった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -