「あ、安室さん」

朝食を食べ終わりコーヒーを飲んでいた降谷さんは、「何?」と短く返事をしてこちらを向く。

「これ、私の家の合鍵です。毎回チャイム鳴らして入ってくるのも億劫だと思うので、使ってください」

キーホルダーもついていない、白いリボンを結んだだけのそれを手渡すと、目を丸くした降谷さんが「いいのかい」と問う。

「どうせ開けるなら鍵で開けた方が楽でしょう?」

暗にピッキングに気付いている事を匂わせて言うと、降谷さんは苦笑いして鍵を受け取った。「仕事の出来るサポーターで良かったよ」
おだてにはのりませんからね!あなたの魂胆は見え見えですから!


職場での事務的サポート(降谷さん以外のサポートも含む)及び雑用を終わらせ、定時(降谷さんの任務が始まってから定時は一時間早い16時になった)で帰宅する。そろそろ冷蔵庫の中身がなくなってきたのでスーパーに寄らなければ。まだまだ残っている仕事の事を考えながら、車を出した。


……野菜と肉がいくつか安くなっていたので、つい買いすぎてしまった…。
これは肉は小分けにした後冷凍庫行きだな。しばらくは野菜中心の生活が続きそう…。
溜息を吐きながら重たい買い物袋を持ち上げると、隣からも溜息が聞こえてきた。どうやら隣にいた女の子も同じことをしていたらしい。女の子はこのあたりの帝丹中の制服を着ている。中学生か。お互いに気が付いて、「あはは…買いすぎちゃった」「私もです。しばらくは野菜たっぷりの健康的なご飯が作れそう」などと言い合った。……へぇ、もしかしてこの子食事担当でもしているのかな。買った量は私と同じくらいだから二人分と見て、母子家庭か父子家庭なのかな。あ、母子家庭なら料理は母親が作るか。じゃあ父子家庭なのかな。もしかしたら別居中……。いやいや、他人の家庭事情にはあまり踏み込まない方が良いだろう。「気を付けて帰るのよ」「ありがとうございます」礼儀正しく礼をした女の子は軽々と袋を持ち直して颯爽と帰って行った。
私ちょっと腕の筋肉無さすぎ?今夜から筋トレでもしようかな。降谷さんに稽古をつけてもらうとか…いや、忙しいあの人の時間を割くわけにはいかないか。ものすごくスパルタな気がするし。
ちょっと想像して気が萎えた私は、これからの予定に思考をシフトして帰ることにした。


「ただいまー」

「おかえり。今日は荷物が多いみたいだね」噴いた。
なんで居るんだよ降谷さん。誰も居ないと思っていつものように間の抜けた「ただいま」を言ってしまった…。
聞かれた事に羞恥心を感じながらも、普通に「おかえり」が帰ってきた事に戸惑っていると、やってきた降谷さんに軽々と袋を奪われた。

「……あ、ありがとうございます」

しばらくは呆気に取られていたが、はっとして絞り出すように礼を言った。今日の降谷さん、なんだか機嫌が良さそうだ。

「随分と沢山買ってきたね」

「ええ…。安かったもので、つい」

袋の中身を適した場所に仕舞いなおしながら、降谷さんは朗らかに言った。機嫌が良いのならと私は食材たちを任せて着替えに行く。その途中でテーブルに置いてあった鍵を見て、ああそうか、私が鍵を渡したんだった。と思い出した。なるほど、それなら私より先に降谷さんが家に居たことに納得できる。
着替えて戻ってくると、降谷さんはソファーに座って仕事の続きをしているようだった。今日は時間もあるし、ちょっと手の混んだものを作ってみよう。機嫌よさげな降谷さんにつられて、私も気分が良い。幸い材料はしこたまあるし、今なら何だって作れそうだ。
料理の準備をしながら、降谷さんの好物を考えた。


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