「んん・・・」軽く伸びをしてから、そろそろ昼食の用意をする頃合かな。と立ち上がる。今日の昼食は何にしようか。アスパラとベーコンが中途半端に残っているから、ペペロンチーノでも作るか。
ちらりと降谷さんの方を見ると、未だ事務作業をしているらしい。手を止めて目頭を押さえている。なるほど、急ぐ必要がありそうだ。私は手早く食材を出して調理を始めた。



「ふう」小さく溜息を吐いてモニターから視線を外すと、丁度食器を持って来た七市野と目が合った。「キリがつきましたか?」「そうだな・・・」「丁度昼食が出来たところなので、少し休憩しませんか?」「ああ」にこやかに言ってキッチンに戻る七市野を見送って、俺は書類を片付けた。

「どうぞ」

「いただきます」

それにしても・・・。パスタをフォークに絡めながら考える。絶妙なタイミングでコーヒーやら昼食やら用意してくるよな。七市野は。
・・・まさか俺が気付いていないだけで俺の事を監視している・・・?こいつ、思った以上に侮れないな。本当に公安の人間なら良いが、元々は組織の人間で公安にスパイとして入っている可能性もある・・・。一度調べる必要があるか。
余計な仕事が増えたなと溜息を噛み殺すと、それを見ていたらしい七市野が「昼食が終わったら一度昼寝でもしたらどうでしょうか」とのたまった。黙れお前の所為だよ。



昼食後に昼寝でもどうかと提案したら、「体調管理の為に少し出歩いてくる」と見事にスルーされて、昼食を食べ終えると本当にすぐ出て行ってしまった。

「ついでに組織の方に書類を取りにいくから少し遅くなる」

「はあ」

「公安の方の報告書はもう出来上がってプリントアウトしてある。明日にでも持って行ってくれ」

「わかりました」

「ああそれと、今日は出かける用事はあるか?」

「いいえ、今日は出かけないです」

「そうか、わかった」

降谷さんが出て行く前にした会話を思い出しながら食器を洗う。私が出かけるかどうかを気にするだなんて、どういうことなんだろう。「どういう意味ですか」と問いただせなかった自分が恨めしい。そして、出かけないと答えたからには何が何でも家から出られないような気がして、なんだかちょっと窮屈な気持ちになった。制約が出来ると息苦しくなるものね。
なんだか腑に落ちないけど、降谷さんがいないうちに掃除と洗濯しちゃおうかな・・・。どうせいる時にやってると煩いからって怒られるんだろうし。
早々に気持ちを切り替えた私は、まずは食器を洗うところからかなと台所に移動した。さて、降谷さんが帰ってくるまでどれほどの仕事が出来るだろうか。



財布と鍵と、早めに提出しなければならない書類だけを持って家を出た。
車に乗ってまず向かうのは組織の本部・・・ではなく、その下の機関。俺は未だ本部にも入れない、下っ端中の下っ端と言うわけだ。
昔はよく行っていたものだが、正式に組織に入るとなるとこうも頑なに拒まれるのだな。・・・・・・少しセンチメンタルが過ぎたか。早く行こう。

どこにでもあるような見た目で何の変哲も無い一軒の家屋が組織の末端の本部だ。その内部は改造を施されており、防音設備はもちろん、射撃の訓練をするための射撃場まで作られている。他にはシャワー室・仮眠室・食堂・情報管理室(またの名を書類倉庫だと入ったばかりの頃に楠田という男から教えられた)・事務所などがある。俺が今日用事があるのがこの事務所だ。
事務所に入れば、事務をしている人間に「お疲れ様です」と挨拶をされた。それに返して、持って来た書類を手渡して一言二言報告する。情報管理室の資料を少し借りても良いかと問えば、ご自由にどうぞと言われた。少し管理がずさんな気がするが・・・まあこちらからしたら好都合か。





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