今日は少し遅くなるけど、夕食は食べるから。
降谷さんから送られてきたメールを見ながら、私は今晩の献立を考えた。暖めなおしても美味しく食べられるものがいいかな。それも出来ればレンジではなく、火にかけて暖めたい。冷蔵庫の中を確認すると煮物に丁度いいメンバーが揃っていた。よし、煮物にしよう。
それほど手際が良い訳ではないがなんとなく料理をする。私にとって料理は味と慣れだ。技術ももちろん必要かも知れないけれど、私からしたらそれほど重要なことではない。
材料を切って鍋に入れて火にかけ、目分量で味をつけて味見した。うん。可も無く、不可もなく。どちらかといえば美味しい方。上出来。
ちょっと嬉しくなりながらも簡単なサラダの準備をしながらメインの方を考える。お肉食べた方がいいよなあ、きっと。降谷さんの分は焼くだけにしておけば家に来たらすぐに焼けるので間に合うだろう。


支度を全て整えて、私はふと降谷さんは何時に帰ってくるのだろうかと考えた。“安室”さんのスマートフォンには私からメールを送った事は無く、返信しかしていなかった。あまりメールを送って不審がられたりしたら大変だと思ったからだ。私と降谷さんが思い浮かべている“安室透”は秘密主義の男というイメージなので、やはり、あまりそう言うことはしない方が得策だろう。
よし、8時半を過ぎても帰ってこなければ先に食べてしまおうと私は着替えを持って風呂場に向かう。お湯を沸かして、そのまま入ってしまおう。降谷さんが来ればチャイムがなるだろうから問題はないはずだ。


お風呂から出て時計を見る。時計は丁度7時半をさしていた。一応スマートフォンをチェックするが、メールは来ていない。
髪を乾かしながらテレビを見ようかなとテレビの電源を入れてドライヤーを取りにいき、一番近いコンセントにプラグを挿してソファに腰掛ける。ザッピングしながら面白そうな番組を探したが、これと言って興味を引くような番組はやっていなかった。仕方なしにニュースがやっているチャンネルを探してそれを見ることにした。

髪を乾かし終えてぼんやりとニュースを見ていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。降谷さんだ。「はあい」と返事をしてから玄関に行き、鍵を開けて彼を迎える。
降谷さんはチラッと一瞬だけであたりを確認してから、するっと素早く玄関の中に入った。

「お疲れ様です」

私が声をかければ、降谷さんは溜息をついて「ああ・・・」と短く返答を返した。気疲れでもしているのだろうか。そりゃあ潜入なんてことをしているんだ。ボロが出ないように神経質になったりするだろう。

「すぐご飯支度しますね」

靴を脱いでいる降谷さんに向かってそう言い、一人でキッチンへ向かう。煮物と味噌汁を温めて、その間に冷蔵庫から肉を出して焼く。下味をつける時間が十分にあったので香草焼きにしてみた。
肉を焼きながら冷蔵庫からサラダとドレッシングを出してテーブルに並べ、丁度焼けた肉と温まった味噌汁と煮物を予め用意しておいたお皿とお椀に盛って運ぶ。箸とコップは用意済みだったので、後は冷蔵庫からお茶を出して降谷さんに声をかける。

「ふ、・・・安室さん、ご飯出来ましたよ」

ソファに座って難しい顔をしていた降谷さんは、私の声にはっとして「ああ、ありがとう」とテーブルまでやってきて、目を丸くした。「きみはまだ、食べてなかったのかい?」

「ええ。でも8時半を過ぎても帰ってこなければ先に食べてしまおうと思っていましたが」

「もう9時を回っているけど?」

「えっ?」

降谷が視線を向けた時計は確かに9時を回っていた。「あれ、いつのまにこんな時間」どうやら私はニュースを見ながらぼんやりし過ぎていたようだった。

「ちょっとぼんやりしていて・・・気が付かなかったです」

「そうか・・・」

降谷さんはあまり見たこと無いような顔で苦笑して、私に席に着くように促しながら自分も着席した。

「折角用意してくれたんだから、冷めないうちに食べよう」

「あ、はい」箸を取った降谷さんに習って私も箸を取りながら、口ごもった。「あの、えっと、」頂きますを言おうとして思い出したのだ。まだ降谷さんには言っていないことがある。不思議そうな顔で私を見つめる降谷さんに、私は意を決して言ってみた。

「おかえりなさい、安室さん」

かくして、降谷さんは今度こそ本当に暖かい目で笑った。

「ただいま、七市野」


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