shuffle romance −混ぜ合わせた恋心−





上演のベルが鳴り響いて体育館にアナウンスが放送されると、紅色のカーテンが左右に引かれ、塔の窓から祈るドレス姿の雛が現れた。


「あぁ…全知全能の神ゼウスよ…どうしてあなたは、私にこんな仕打ちをなさるのです? それとも望みもしないこの婚姻に、身を委ねよと申されるのですか?」


愁嘆を演じる彼女を眺めながら、千影と青子に挟まれて客席に座る快斗の心境は複雑だった。


(あぁ、くそ…っ! やっぱり変装でもして相手役になっときゃ良かった…雛のドレス姿めっちゃ可愛いし!////
 って言っても、青子と母さんが居たら下手なこと出来ねぇしなぁ…;)


雛の舞台を観ずに抜け出せば青子に不審がられるし、千影にフォローしてもらって変装して行けば、後でからかわれるに決まっている──どちらにしろ、身動きの取れない快斗であった。



(相手役も教師とはいえ男なんて…落ち着いて見てらんねぇ;)



快斗がもやもやしたまま、クライマックスにさしかかった舞台ではいかにも敵国と思しき兵士たちが雛を乗せた馬車の前に立ちはだかっている。



舞台袖では、それを見ていた園子が張り切って振り返った。騎士役がすぐ後ろに控えているはずだからだ。

「ほら先生、一番の見せ場よ!早く上がってスタンバらない、と…」




* * *




「お、おのれ何奴!? これをブリッジ皇国、ハート姫の馬車と知っての狼藉か!?」


「もとより承知の上よ!姫を亡き者にし、婚姻を壊せとの命令だ!! 我等帝国にとっちゃ、皇国と王国には今まで通りいがみ合ってもらった方が都合が良いって訳よ!」


「どけぇ!!」


「うわぁ!!」


「来い!」


「ぁ、あぁっ!」
味方の兵士たちが倒されて馬車から雛が無理矢理引きずり出されると、ライトアップされた天井から漆黒の羽が舞い落ちた。


「か、鴉の羽!?」


「なっ、…まさか!?」


「こ、黒衣の騎士!!?」


突如上空から降り立った騎士に、客席からも歓声があがる。


「くそ、引け!引けぇ!!」


帝国の兵たちが一斉に立ち去ると、雛が黒衣の騎士に近づいた。


「一度ならず二度までも、私をお助けになる貴方は一体誰なのです?
あぁ、黒衣を纏った名もなき騎士殿…私の願いを叶えて頂けるのなら…どうか、その漆黒の仮面をお取りになって…素顔を私に…」


騎士は振り向くが、彼女の両肩に手をかけるとそのまま抱き寄せる。


「え…、?」


黙ったまま、ぎゅっと抱き締める騎士に戸惑ってしまう。


「んな…っ!!?」
青子は隣の席で感極まっているようだが、快斗は思わず口をあんぐりと開けてしまった。


(あんなの、台本に無かっただろ!?;)



舞台上の雛も動揺して「先生?台本と違いますけど…」と小声で話し掛けるも、騎士からは何の反応もない。


一方、冷めた瞳で舞台を眺めるマスク姿のコナンの隣には帽子を被った青年が舞台を眺めながら腰掛けた。客席に居る筈のないその青年の姿に驚くが、こちらの彼もなんとも不機嫌そうである。






「そ、園子…こっからどうすれば良いの?」と、雛はこっそり舞台袖に話しかけたが、ニンマリ笑った彼女からは『いいからそのまま続けて!!』とのカンペが出されて困惑してしまう。


『本当に大丈夫なの!?;』と心配になりつつも、舞台上のため、意を決して騎士から離れて台詞を口にした。



「あ、あなたはもしやスペイド? 昔、我が父に眉間を切られ庭から追い出された貴方が、トランプ王国の王子だったとは……あぁ、幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ、どうか…どうか私の唇にその証を…」



雛が騎士の肩に手をそっと置いて瞳を閉じると、快斗と、コナンの隣席に座る冷静を装っていた青年が思わず声をあげた。


「「─────な、何を…っ!!?」」


徐々に近づく雛と騎士に我慢ならず椅子を壊す勢いで立ち上がった二人の声と物音は、しかし女性の大きな叫び声に掻き消された。



バッとマントを翻した黒衣の騎士が雛を守るように立ちはだかった舞台の反対で、悲鳴のあがった客席では一人の男性が倒れていた。





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