江戸川コナン…もとい工藤新一は、小さな身体 のまま不機嫌そうに思い切り顔を歪めていた。 待ち合わせ場所で合流した蘭達の話によると、やはり雛にも内緒で工藤新一をおびき寄せる為の策略だったらしい。 「もう、園子ったら…私にも言ってくれたら良いのに」 「雛は嘘吐くの下手なんだから意味ないでしょー? 」 ニヤニヤと園子が雛と黒羽を見る。 少し照れているのを隠すように、顔を背けた奴に苛立ちを覚えた。 ──話を整理すると、園子が知り合いから貰ったトロピカルランドのチケットを「忙しくて使えないの」と雛と蘭に譲る代わりに、相手を伏せて「デートに行く」という言い方をするように言い渡したようだが。 裏を返せば実際のチケットは五枚あり、蘭と園子は二人で入園する予定。 雛を囮に俺…つまり工藤新一を呼び戻す算段だったという訳だ。 ──もちろん、黒羽が付いてくることも予想しての『五人分』らしい。 (黒羽が付いて来ることまで予想の範囲内って…こいつら、俺の味方じゃねぇのかよ;) 少し考えて(いや…雛の味方だな…;)と、心の中でガックリと肩を落とす。 「新一だって、事件が終わればきっと帰ってくるよ?」 「雛…あなた、何の為にあいつを呼び戻そうとしてるか解ってないでしょ?」 「…??」 「まぁ良いじゃん、蘭♪ …さて、改めてチケット渡すから…雛、黒羽くんと行ってらっしゃい」 「「…ぇ?」」 「え…俺、行って良いのか?♪」 「勿論!お膳立てしてあげたのに新一くんも居ないし(居たら三人で行かせてたけど♪)…せっかくだから二人で行ってきてちょうだい!」 「そうよ♪私達はコナン君と三人で行くから、気にしないで?」 「──や、やだ! ボク雛姉ちゃんと行くっ!!」 「コナン君、我が儘言わないの!」 思わず声をあげると、やはり蘭に止められる。 (でも、ここで行かせたら…っ;) 「だってボク、新一兄ちゃんの代わりに来たんだもん!」 「肝心の新一君が来ないんじゃ意味ないのよ! 黒羽くんは雛の為に駆け付けてくれたっていうのに…ガキンチョは私たちで我慢しなさいっ」 「〜〜一緒に行くっ、良いでしょ!? 雛姉ちゃん!!;」 きょとん、と瞳を瞬かせた雛が、次いでふふっと笑みを零した。 (…こいつ、工藤新一がコナンを演じてることに笑ってやがるな/// …ったく、人の気も知らねぇで;) 「…快斗、今日はコナン君と三人で行っちゃだめかな?」 「は…?;」 「よく解んないけど、心配して来てくれた人と行くんでしょ?」 「……あぁ、もう;…わぁーったよ! 三人で行こうぜ?」 「蘭、園子、今度は私も一緒に遊んでね?」 「まったく、雛は可愛いんだから♪」 「ごめんね、黒羽くん。 …コナン君、良い子にしてるのよ?」 「わ、わかったよ…蘭姉ちゃん」 と、微笑んで会話を交わす雛の隣で黒羽が俺をじろりと見下ろした。 俺もじっと見返す。 視線を逸らすのは簡単だが、負けじと気が競っているのだろう。 (バーロー…雛と二人っきりになんか、させられるかよ) * * * 「さっきのアトラクション楽しかったね〜♪ 入口のキャラクターもすごく可愛かったぁ」 あれから3人でいくつかのアトラクションに乗りながら歩き、雛もまるで小さな子供のように楽しんでいる。 (なんて顔して笑うんだよ///) キラキラとした笑顔ではしゃぐ彼女に、俺と黒羽は傍で顔を赤くするばかりだ……まぁ、アトラクションに乗る際はさりげなく隣の席を奪い合っているのだが; 「ぁ…、」 歩を進めた次なるエリアの入り口に佇む黒い屋敷に、雛の身体が止まる。 見たまんま幽霊屋敷のそれを前に、俺達が入りたいのかもしれないと気を使っているのだろうか。 (ったく、自分は入れもしねぇくせに…) 小動物のように首をすくめて立ち止まる彼女の可愛らしさに口の端が上がりそうになるのを堪えて、雛の手を取った。 「雛姉ちゃん、何してるの? こんな暗いとこ入れないんだから、 無理しないで他行こう?」 「…ありがとう、コナン君」 笑顔を取り戻した彼女の手をひいて歩きだそうとすると、後ろから黒羽の視線を感じた。 「…快斗兄ちゃん、どうかした?;」 「……いや? なんでもねぇよ」 無表情に俺を眺めていた黒羽が、声をかけたことでニコリと笑みを貼り付ける。 (俺…なんかしたか?;) それからはしばらく、背中に痛い視線が刺さったままだった。 戻る |