罠にかけられたのは誰?





雛がデート宣言した当日、俺─黒羽快斗─は距離を取って彼女を尾行していた。



…いや、決してストーカー行為じゃねぇぞ?;



相手のヤローを牽制して、どんなことをしてでも彼女を連れ帰るつもりだ。



(雛のやつ…あんな可愛い格好しやがって…っ!)



そう、短すぎない白地のワンピースは膝上でふわりと揺れ、羽織る上着も最近気に入って買ったと話していた丈の短い薄蒼のものだ。



いっそのこと連れ去って、俺がこのまま青空デートしたいくらい可愛い。



(まさか、俺の知らないところで男と付き合ってたりしねぇよな…; ──ぁ、)




ふと、視界に入ってきた小さな影に目を細める。


実はさっきから、自分と彼女の間でウロチョロとしている眼鏡の小学生がいる……キッドとしてはお馴染み、『名探偵』だ。




(…何やってんだ? あいつ;)



雛はもちろん俺達には気付いておらず、電車に乗るとカバーのかかった『何か』を読み始めている。


本…いや、冊子のようだが彼女の手より少し大きく、手作り感がある。



通路を区切る隣車両の扉の窓から覗き見る名探偵に、俺が忍び足で近づくと、小声で漏れ出る愚痴が耳に届いた。



「ったく、雛のヤロー…何処まで行く気だよ…」


「『雛お姉さん』だろ?」


「───っ!!?;」


ボソッと彼女の名を呼び捨てた坊主に苛立って声をかけると、ビクゥッと飛び跳ねるようにその小さな身体が跳ねた。



「なっ、黒、おま…!?
か、快斗兄ちゃん…どうしてここに!!?」



(おい、明らかにお前って言おうとしたろ…今;)



慌てて自分の口を塞ぎ、現場とは打って変わって取り繕う姿は違和感でしかなく、細めたままの冷めた眼でじろりと観察してしまう。



(こいつも、やけに雛と仲良いよなー…予告現場にも一緒に居たし…)



気にいらねぇけど、心中の独白に付け足す。


流石の名探偵とはいえ、仮にも小学生…彼女に意識されることはまずないだろう。



(こんなボウズに対してまで…嫉妬するなんて、な)




未だ冷や汗をかいて固まった作り笑顔を貼り付ける名探偵から、隣の車両に佇む雛の様子を一瞥する。




ふ、と息を吐き、緩やかに唇に弧を描いて口を開いた。


仮にも『一般人のお兄さん』として、『快斗』以上の片鱗を見せる訳にはいかないからな。



「まぁ…此処に居るのはお前と同じ理由だろうよ?」


「……;」





* * *





間もなく着いた駅は、トロピカルランドの入り口が傍にあるものだった。


まさかの『遊園地デート』の可能性に、苛立ちを隠せずにいたが(どうやら隣の名探偵からも、どす黒いオーラが出ているようだが)、彼女は遊園地の入り口とは逆の店舗街を歩き始める。




「雛ーっ!」


こっちこっち!とカフェテラスから顔を覗かせて彼女を呼ぶのは、そのクラスメートの…毛利さんと鈴木さん、だったか。



「蘭!おまたせ…って園子? 今日は忙しいから来れないって言ってなかった??」


「良いから良いから♪ …ほら後ろ!」



(──やべっ!;)



二人に駆け寄った雛は不思議そうな顔をしているのだろう、首を傾げているのが後ろからでも解る。


対して、クラスメート達は隠れることも忘れて離れた場所で呆気にとられた俺達を見ていたようで、指をさしてにんまりとした笑みを浮かべている。



「ぇ……快斗…コナン君? なんでここに…??」



(あ゙ー、見つかっちまったか…;
でも、デートの相手って……)




振り返った雛につられて俺も首を傾げたくなったが、隣に立つ少年は呆れたように大きな溜め息を吐いた。



「は…っ、蘭のヤロー…園子と二人でハメやがったな;」


「…は?」


「デートだって言えば俺たちを誘き出せる……っ、い、いや、じゃなくて…新一兄ちゃんをね!?」



「あ゙??……ってことは、男とデートじゃねぇのか?;」



名探偵モードになった少年の気になる言葉を無視し、今一度デートではないことを確認して肩の力が抜ける。



「…んだよ、心配させやがって…」



(雛も……いや、もしかしたら、状況を一番解っていないのはアイツ自身かもしれねぇな…;)



とはいえ、彼女から見れば出先に付いてきた二人組にしか見えないだろう。



『相手の男を牽制し、連れて帰ってやる』だなんて悪略がガラガラと音を立てて崩れるなか、彼女にどんな言い訳をしようかと頭を掻いた。





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