「ただいま〜」 やけに上機嫌な蘭が探偵事務所の扉を開ける。 ソファの上から夕方のニュースをボーッと眺めていた俺は、横目でちらりと蘭を見るに留まった。 夕方だというのに、早くもおっちゃんはポアロで麻雀仲間と待ち合わせをしている。 「おかえり、蘭ねぇちゃん…」 「あら…、コナン君まだ元気ないの?」 (ほっとけ…、) 先日の雛と喧嘩…というより俺が彼女に一方的に怒ってから会っていない。 「悪かった」と一言伝えるだけで良いはずなのに、電話で上手く話せる程器用じゃねぇし…小学校に通う俺に接点はない。 (ぁー、雛に会いてぇ…) 風に揺らされる柔らかな髪も、俺に笑いかける表情も、女の子らしい甘い香りも。 惹きつけられて堪らない。 冷製さを欠いて馬鹿なことをしたと、我ながら呆れかえって後悔する。 (やっぱ…雛が怒っている訳じゃねぇんだから、会いに行って謝るか…) ソファから降りて、蘭が帰ってきた扉を見上げる。 「ぁ…、コナン君出掛けちゃうの?」 「──っ!! ひな、///」 「こら!呼び捨てにしちゃだめでしょ!? せっかく雛が遊びに来てくれたのに…」 「蘭、いいよ」 俺が探偵事務所を出る前に、蘭に続いて雛が入ってきた。高校の帰りに寄り道して遊びにきたのだろう。 「久しぶり」と言って微笑んだ彼女の可愛らしさに、欠乏症のように彼女を欲していた、幼児化した小さな心臓がドクリと跳ねた。 * * * 雛が「そろそろ帰るね」と席を経ったのは、それからしばらく過ごしてからのことだった。 蘭の手前もあり、雛とは互いに普段通りに接していた。 結局、博士の家にゲームを返しに行くと理由をつけて彼女と探偵事務所を出た。 「「……、」」 西日で染まる空が、黙り込んだ俺達の並んだ影を作っている。 「…新一、この間はごめんね」 「…なんでお前が先に謝んだよ、;」 「ぇ?」 きょとん、と首を傾げる雛に頬が赤らむ。 あぁ、雛にも「自分が悪かった」と思わせてしまってたのかという罪悪感と同時に、そんなことでも俺のことを想ってくれたのかもと心が少し弾んだ。 「俺が先に……/// いや、俺の方こそ悪かったよ。…灰原の話も、ちゃんと聞いたから」 「…うん、」 不意にチリンッ、とベルの音がして振り返ると、彼女の真横を自転車が通り過ぎていった。 小さくなる前は雛を守るように、自然と車道側に立ってたな、と懐かしさが蘇る。 「…やっぱり、雛は放っとくと危ねぇな」 俺はニッと笑って車道側の手をとって歩く。 小さいと思っていた彼女の掌は今は少し大きく、優しい温かさがあった。 「新一、」 「ん?」 「この間…、心配してくれてありがとう///」 早くなる胸の鼓動とその切なさが、むしろ心地良い。 少し照れたように笑う彼女に、俺の心はまた鷲掴みにされた。 朱く色付いたであろう頬は夕暮れのせいだということにしておこう。 戻る |