悲惨な結末を迎えた聖杯戦争が終結して、それによって言峰綺礼は自分の悪性を悟った。
だがしかし受け入れてしまえば、それを今まで拒んでいた自分はなんだったのだろうかと思うくらいによく馴染む。未だに受け入れがたい事はあるが、それも軈て自分に馴染んでいくのだろう。

それだけではなく、あの火災では大きな拾い物もしたのだ。
虚ろな眼で瓦礫の山となった焼け地を歩く、答えを追い求めた男を見て、一気に興味は失せてしまったのだが、彼は最期にどんな絶望を見るのかが少しだけ気になり死体に等しいその身体を教会にまで運んでいたのだった。

教会地下で目覚めた男は何のつもりだ、離せ、ここから出せと最初こそ息巻いていたが、外の現状を伝えれば、あれは悪夢ではなく現実だと理解した。だが彼は未だに現実を受け入れず、喚く事はなくなったものの、ただ静かにここから出せと抗議をするのだ。



「何時まで意固地になっているつもりだ、衛宮」

「……うるさい」

「現にお前は何一つ救えなかっただろう?」

「嘘、だ。……僕は……」

「そうだろう、ならばお前の手には何が残っているんだ?」



眼に焼き付いて離れない光景が、脳内を駆け巡る。
そんな事はない。僕は、あの時、だってそれは。



「…………そうだ! あの子は……っ、あの子はどうしているんだ?!僕をあの場所で拾ったんだとしたら…………なあ、男の子が居ただろう? 彼は、彼は…………どうなった……?」



それまでの憔悴が嘘のように一気に捲し立てる切嗣を見て、まだそんな元気があったのかと綺礼は純粋に感心した。だが言葉を吐く中で段々と最悪を想定したのだろう。言葉尻はどんどん下がり、最終的に声は震えていた。


これが、衛宮切嗣という男の末路なのか。
その非情な行動から魔術師殺しとさえも言われた男は、嘗て対峙した時の面影はまったくない。むしろ可哀想なくらいに蒼白にさせて、打ち震えている。己の罪を、アレを拒んだ事への罪悪感に包まれて。


切嗣の言う、あの場所にいたという少年。
まるでそれが最期の希望だとでも言わんばかりに縋りつく様があまりにも憐れで、滑稽で、それがとてつもなく愛らしいいきもののように思えた。



「…………さあな」

「…………………嘘、だろう…………だって、だって…………」



綺礼は何も答えない。
それが何よりも雄弁に物語っているようで、切嗣はそれ以上何も考えたくないと、遮断するように叫んだ。そしてわあわあと、小さな子どもの癇癪の様に泣き出した。

あまりに痛ましい切嗣の姿を見て、綺礼は自分の心が嘗てないほどに満たされている事に気付く。そして確実に、この男に欲情している事にも認めざるを得なかった。そのまま衝動に任せて、気がつけば綺礼はその簡素なベッドに切嗣を組みしだいていた。









     

   



「…………っ、う、……んあ……あっ、あ……」

「お前……本当に初めてなのか……?」

「……っ、なに、いって……っ」



睨み付ける目には羞恥からか、苦痛からか涙がうっすらと浮かんでいるが、どこを触っても身体中が性器なんじゃないかと思うくらいに切嗣の感度は良く、一気に熱が高まる。



「処女にしては随分感度が良いと思ってな、経験済みなのか?」

「だ、れが処女だ……っ、ふざけるな……いきなりこん……んあっ……」

「尻の穴に指を入れられて喜んでいる人間に言われてもな」

「………うあっ……んっ」



指を動かせばぐちゃり、ぐちゃりと淫猥な音が鳴り響く。
普段聞くことはまず有り得ない衛宮切嗣の高く、媚びるような嬌声には綺礼自身の脳内が犯されていくような錯覚に陥る。ぐずぐずと解れていく孔は、まるで最初からそうする事を知っていたかのように収縮を繰り返し、まるで膣そのもののようだった。



「あっ…………」

「……」



ごくり、と唾を飲む音がやたら響いて聞こえたのは綺礼自身だけでなく切嗣にも同じだったようで、これから何が起こるのか、未知の恐怖に怯えている。

やめろ、やめてくれ、お願いだから、頼む……何度も何度も繰り返される声に意味などない。綺礼はその悲痛な嘆願を、まるで讃美歌の一節を聴いているかのような心地よさを感じる。彼の嘆きはどうしてこうも甘いのだろうか。甘く、痺れるような心地よさに、確かに綺礼の心は満たされているのだ。



「ひ、うっ……も、やめ……」



羞恥か、それとも生理的に浮かんだ涙を浮かべて懇願する切嗣に、征服欲というか、嗜虐心というか、もっと酷い事をしてやりたいと綺礼は思う。そう、あの悲観に嘆き叫んだ姿を見てから、彼にどうしようもなく劣情を抱き、興奮しているのだ。

その証拠に、綺礼の下半身はさっきから熱を持っていて、臨戦態勢に入ってしまっているくらいなのだから。曲がりなりにも信仰心は本物である聖職者な綺礼としても、これは受け入れがたい事実なのだ。



「………は、………なに、し……っ、ぐっ、あああっ」

「なに、お前の愛用の獲物を一つ、借りただけだ」



安心しろ、銃弾は入っていない。
指とは比べ物にならないくらいに太いその異物の挿入に、切嗣は悲鳴に似た声を上げた。うぐ、ぐ、と痛みを堪える呻き声がいっそこのまま死んでしまえたら、という切嗣の声が聞こえてくるような錯覚を起こす。

そんな事を暢気に考えていれば、震える切嗣の異変に気付く。先程までの痛みに呻く声から一転して、漏れる声が明らかな色を持っていたのだ。



「んんっ、だ、だめだ、ことみね、や、やめっ」

「――――――そうか、気に入ったのか」

「……あ、ああ……んっ、だめ、動か…すな……――――――っ」



ビクリ、と跳ねた身体と、飛び散った白濁が全てを物語っている。
まさか銃相手にところてんとは、本当に初めてなのかも疑わしく思えるが手段を選ばないと言う男ならば、そういった行為に及ぶこともあったのだろう。どこか腑に落ちない部分はあるが勝手に解釈し、綺礼はそれ以上考える事をやめた。思考を停止した訳ではない、肩で息をする目の前の男を甚振る方がずっと楽しいと判断したからだ。



「――愛用の銃に犯された気分はどうだ。衛宮切嗣」

「最、低に……決まってるだろうが」

「そうか。それは残念だな」



羞恥と怒りに震える切嗣は、綺礼と対峙した時と同じような殺気を孕んだ眼で此方を睨み付ける。舌を噛み切られなかっただけマシだとも思える。
カチャカチャ、と聞こえてくる音に切嗣の顔は上気しきっていた赤から一気に蒼白へと変化した。



「なに、して……うそだよな、おい……おい……やめろって、おい」

「まあつまりそういう事だ」

「無理、無理だろそんな………―――――――っ、あああああああああああっ」



じたばたと暴れ始めた切嗣を押さえつけ、熱い己の欲望を捻じ込む。いくら指や銃口を受け入れたからといってつい先程までは排泄に使われるだけで異物を受け入れる場所ではなかったのだから、狭いのは当然だ。
ぎゅうぎゅうと拒む様に絡みつく肉壁が熱く、それこそまるで膣に性器を挿入したかのような錯覚に陥る。



「っ……きついな……」

「うぐ……、あ……、じゃあ、抜けって……あぅ、う、動くな……」

「無理だ。お前ももう少し力抜け」



ぐっ、と腰を掴んで打ち付ける。肉のぶつかり合うような音に、ああ、今衛宮切嗣を犯しているのか、と綺礼はどこか客観的に思う。
腰を打ち付けると応える様に喘ぐ様に、自分の欲が限界になる。中に思いっきり射精して、その熱を全て注ぎ込みたい。この男を、自分で犯しつくしてしまいたい。



「ちょっ……待って、まさか……ちょ、っあ、やめっ、あっ」

「体の良い魔力供給だと思えば良い」

「なに、そんなっ、ひ、っああ、あ――――っ」



打ち付ける速度を速くして、最奥を抉るように突くと共にどくどく、と欲望を中に吐き出す。全て吐き出し、弛緩する穴を掻き混ぜるように緩やかに挿出を繰り返す。ぬちゃぬちゃ、と水温が響き、か細く喘ぐ切嗣の声が途切れ途切れに合わさった。



「………んん……はあ…………ああ……」



勿論避妊具などつけてはおらず、そのままだ出してしまったが、魔力供給という分には充分すぎるくらいだろう。ずるり、と自身を抜こうとすると、絡みつく足がそれを拒む。
一瞬何が起きたのか理解出来なかった綺礼だったが、性器を咥えこんだ後孔はキュッとその締め付けを強くする。



「んあっ、は……おっきく……なった……」



先の抵抗はどこへいってしまったのかと思うくらい、その眼は融けて、媚びた甘い声とセリフはまるで娼婦そのものだった。理性が飛んでしまったのか、それとも与えられた魔力に酔っているのだろうか。



「ひっ、あ、んんんっ……熱い、あっ」

「お前は…………悪魔のような男だな……」



ぐちゃ、ぐちゃ、と態と水音を立て、緩い律動を繰り返す。浅い部分で挿出を繰り返される熱の塊に、焦らされている切嗣の表情が熱を孕む。熱に浮かされた目は明らかな欲を映していた。



「ひあ……っ……ほ、…………ほしい」

「何が欲しいんだ?」

「…………ほしい……熱いの、中で欲しい……」

「既に中には出しただろう?」

「もっと欲しい、たくさん……中に、出して欲しい……ことみねの……たくさんちょうだい……」

「この淫乱が」



蔑むように笑って、貪る様に腰を打ち付けた。歓喜に喜ぶ喘ぎ声に、何とも形容しがたい達成感に満ち溢れる。魔力の相性がいいとなるとここまで変わるものなのかと綺礼自身驚愕していた。こんなにも変り果てるのか、それともこれが彼の本質なのだろうか。

媚びた嬌声を恥ずかしげもなく鳴らす切嗣に、綺礼はやれやれと呆れた。だがその隠しきれない本心が彼の口角を吊り上げさせる。

このどうしようもない罪人を、くたびれてやがて死に向かうだけなただの廃人である男を何よりも美しいと思えるのは、それはきっと綺礼の美徳がズレているからなのだろう。


ただ理解してしまえばそれで充分で、目の前で啼いている男がより一層愛しく思えて、その歪んだ感情をすべて欲望として、彼の腸内に叩きつけた。