・アインツベルン相談室のワンカットでときめいた警官パロ
・背景設定とか色々迷子









一つの電話から、バタバタと部署内が一気に慌ただしくなる。
ここ最近ニュースを騒がせていた連続殺人犯の検挙、それに伴う事情聴取の準備だ、手続きだと何かと事務的な作業も多い。それと共に入ってきた情報に、チームのメンバーは頭を抱えてしまう事になる。
予想はしていた、何せ今回の現場担当は彼だったのだから。誰もがビルが一つ壊れる位の予想はしていたから、それに比べればまだ今回はマシな方なのだろうか。

端的に言えばまた、衛宮が無茶をしたのだ。
衛宮切嗣は正義感に溢れた人間だった。だがしかし、傭兵などの経歴を経てからこの仕事に就いた為か、その手法は些か無理が過ぎる事が多い。
やりすぎだ、だの非人道だ、だのと言われるのは日常茶飯事。更に彼の直属の後輩からは外道とまで言われている。

彼自身やたらと効率に拘る部分がある為か、多少の犠牲なら致し方ないという考えなのが尚悪い。テロリストとのネゴシエイションには相手顔負けの、――いや、それを遥かに上回る規模の爆薬を持って交渉現場へと現れたのは最早伝説となっている。彼はどこまでも無茶苦茶な男だ。
逆を言えば、彼こそ犯罪者に向いている人間も居なかっただろう。それが彼の経歴から自然と身に着いたものだとしても、彼には犯罪者の心理と言うか、行動パターンがある程度読めるのだろう。そして冷静過ぎる判断を下せる一面も持っている。


――大変不服ではありますが、ある意味切嗣がこちら側の人間で良かったです
――それはどうも。……褒め言葉として受け取っておくよ
――出来ればそのままの意味で受け取って頂けると有り難いのですが


仮に敵にでも回ったらどうなる事やら。と溜息混じりで話していた後輩を思い出す。彼女は衛宮切嗣と同じように正義感に溢れた、ただ衛宮切嗣のように非人道ではない、ただ実直な人間だ。
そしてその真っ直ぐ過ぎる性格故に切嗣とは入署時から対立し、当初は口を利く事さえなかったような間柄だ。彼女曰く、今は会話が成立するだけまだマシらしく、これではどちらが意地を張った子どもなのか分からなくなる。





「――――だから貴方と言う人は! 何で毎回こちらの指示を聞かずに! 単独行動に出るのですか!」
「だから悪かったって言っているだろ。あと傷に響くから騒がないでくれないかな」
「貴方の謝罪には誠意が見えない!」

ぎゃあぎゃあと喧しい声と共に件の衛宮がやってくる。
先の後輩である彼女、――アルトリア・ペントラゴンに肩を借りながらずるずると引き摺られている切嗣は胸の部分を鋭利な刃物で斬られたせいか、制服のシャツが酸化した血によって黒く染められている。
乾いたばかりの血腥い匂いを署内に撒き散らすのは如何なものかと思ってしまうのだが、彼の行動にはそろそろ周りも慣れてきたようだ。

大方今回は武器を持った犯人に特攻でもしたのだろう。ドラマでもあるまいし、毎回毎回そんなアグレッシブな解決法が上手くいくわけがないのだ。時折こうして怪我をする辺り、その勝率は七割と言った所だろうか。それでも検挙率は十割を誇るのだから、何が最善の手なのかが分からなくなる。

「とりあえずそんな往来で騒ぐな。あと自業自得という言葉を知っているか、衛宮」
「ああ言峰、良い所に……。申し訳ありませんが切嗣の処置をお願いしてもいいですか。もしアレだったら傷口を思いっきり開いて暫く動けないようにしても良いんで」
「君……、それ上司の怪我に対しての言葉じゃないよね?」
「貴方がもう少し、考えて動いていただければ私もそれ相応に考えさせていただきますので」

不満を漏らした切嗣に対してアルトリアはにこやかに言葉を返す。さすがの切嗣も口喧嘩には弱い、不服そうに顔を顰めた後に、分かったからもういいよ、とだけ呟いた。
アルトリアはそのまま自分の仕事――所謂上司の報告書やら始末書の整理に戻るとの事で、切嗣はそのまま直帰してくださいよ、と念を押してからその身柄を引き渡した。
その言葉を聞いて嫌そうに顔を歪めた辺り、この男はまだ仕事をしていくつもりだったのだろう、とんだワーカホリックだ。


とりあえず開いている会議室で適当に治療でもするか、と引き渡された切嗣に肩を貸し、先程のアルトリアの様に引き摺る。
背負う事も抱き上げる事も出来るのだが、背負った際に胸の傷が悪化されても困るし、何より綺礼にもこの後も仕事があるので自分の制服が血で汚れるのは避けたい。
膝裏を持ち上げ、抱き抱えるのは……恐らく本人の明日からの名誉に関わるだろう。それはそれで面白いと思ったが、ぎゃあぎゃあと喚かれても迷惑なのでやめにした。
本来ならば病院に連れて行く事が最善なのだが、切嗣は何故か大の病院嫌いで、彼の意識がある以上病院に連れて行く事は困難を極める。とりあえず一通りの応急処置は出来る、もしも想像よりも重症だったのなら、鳩尾を一発殴ってでも連れて行けばいいだろう。
そう平然と考えてしまう綺礼の思考も一般人からしてみれば、相当にキているものがあるのだが。