・TMFesで上映されたカーニバルファンタズムのドキドキデート大作戦メインヒロインデート編のパロです
・御三家と綺礼が学パロでわーってしてるだけ







 予定が被った時、人はどのように動くのか。
 僕の場合、友人の誘いとアイリスフィールの誘い、どちらを秤にかけるかと言われたら即答で後者だ。友達甲斐のない奴だと思われても良い。彼らには後で埋め合わせをすればいいだろうし、問題はない。実際に友人達には都合が悪くなった事を伝えれば少しだけ残念そうにした後、それならば致し方ないと承諾してくれたのだから。それはアイリが怖いから、という訳ではなくて、寧ろアイリの場合きっと「友達との予定を優先してほしい」と言うだろう。彼女は比喩でなく聖女で、僕の一番の人だから。だからこそアイリの希望は叶えてあげたいし、優先したい。
 
 アイリの用事は買い物の付き合いだった。二人で映画を見て何軒か店を眺めた後に舞弥と合流して、ケーキバイキングにも行った。可憐なアイリとクールな舞弥。そんな目を引く二人に囲まれている僕は、嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになる。ケーキは甘すぎず、美味しい物だった。今度は大食漢な後輩も連れて行ってあげようと三人で笑い、二人を家まで送り届けて帰宅した。


 帰宅すると家には先客が居た。と言っても割といつもの事なのであまり気にはしないが、先客、――遠坂時臣と間桐雁夜は自分の家の様にくつろいでいて、普段ならば何とも思わなくても一応は約束をすっぽかした相手だった手前、少しだけ後手に回ってしまう。自分の家なのに少し気まずい、と思っていたのは僕だけだったようで彼らは楽しかったか?とまるで親が子供に一日の感想を聞くように訪ねてきた。素直な感想を述べれば、それは良かったと笑っていた。なんだろうか、この違和感は。
 本当は綺礼も来る予定だったんだけど、彼は家の手伝いがあってね、と笑っていたが正直僕はホッとしていた。彼の性格上、表立っては抗議してくることはない。逆に寡黙な綺礼は、その眼が雄弁に物語っていて、怖い。何も映していないようで、色々な感情を含んだ眼で見つめられるのは、言葉以上に感情をぶつけられているようで、居た堪れない気持ちになるからだ。
 またこいつらは泊まっていくのだろうか、そしたら布団を出さなくちゃいけない。勝手知ったる家とはいえ、さすがに布団の位置まで把握している訳はないだろう。ただなんだろう、凄く眠い。今日は久しぶりにアイリにつきあって色々歩きまわったからだろうか。ああ、眠い、ねむい。


 規則正しい機械音に意識が浮上する。浮上したばかりの意識に窓から差し込む光は強いくらいで、そろそろ遮光のカーテンが欲しいと思ってしまうくらいだった。昨日はあれから、寝てしまったのだろうか。途中までしっかりしていた筈の記憶がおぼろげだ。ここは自室だけれど、そもそも自室に戻ってきた記憶さえもない。そして何だか身体が怠い。風邪だろうか、
 寝起き特有のふらふらとした体を引きずるように廊下を歩けば、よく見知った男が玄関で靴を履いていた。ああ、泊まっていったのか、布団はどうしたんだろう。

 「雁夜……?」

 「ああ切嗣。朝ごはん、作っておいたから」



 じゃあ俺は先に学校行くから、と此方を見る事もなく雁夜は家を出た。
 一人暮らしにも関わらず炊事能力のない僕の代わりに色々としてくれる雁夜は、泊まる泊まらない関係なしにご飯をよく作りに来てくれる。そしていつもならば一緒に朝食を取って登校する。それがないと言う事は日直か何かなのだろうと気にせず朝食のある居間へ、踏み入れ、用意されたテーブルを見て固まった。確かに雁夜の言う通り朝食は用意されていた。味噌汁とごはん、そして、そして。寝ぼけているからだろう、目を擦り、もう一度よく見る。おかしい、そんなわけがない、そんなものがあって良いわけがない。



 鮮やかな緑のサラダ菜と赤のトマトが散らされた大皿の上に、蠢く物体があった。




 「……………?!?!?!?!」



 何だこれ、なんだこれ、なんだ、これ。


 どうみても食事とはかけ離れたそれは、男ならばよく見慣れた身体の器官に酷似したいきものであって、動きのせいもあってかかなりグロテクスだ。というか、凄く気持ち悪い。何とも形容する事を憚られるそれに当てはまる言葉があるとするならば、ただ一つ、男性器だ。身体の怠さと相俟って込み上げてくる吐き気をどうにか堪えて、そしてこの謎の生き物をどう処理すべきかと少しだけ考えることになった。





 謎の生き物をどうにか処理して、学校へ向かう頃には心身共に割とボロボロだった。出来るならば授業も休んでしまいたいが、特に熱があるわけでも、頭痛や腹痛があるわけでもなく、更にはテスト期間が近い事もあってどうする事もないまま机に突っ伏している。聞いて居ないなら受けなくてもこれ同じなんじゃないのか、という疑問が一瞬浮かんだけどそれは脳内で消した。



 「切嗣、調子が悪そうだね」

 「時臣……、大丈夫。ただの風邪だよ」



 朝から続く倦怠感は恐らく風邪だろう。それ以上に謎の生き物に気を持ってかれたせいですっかり忘れていたものの、それは指摘されれば実感が増す。ああ、頭が重い。やっぱり後でもう一回保健室に行こう。
僕の様子をみた時臣は何かを思い出したように鞄の中を探り、それを僕に渡差し出した。



 「これを持っていると良いよ。悪い物を避けるお守りだ」

 「良いのか…?」

 「勿論」



 時臣から渡されたのは小さな宝石の欠片の様な物だった。熱がないなら保健室に行くのは難しいだろうからね、と微笑む時臣に曖昧な笑顔を返す。貰ったお守りをポケットの中に仕舞った所でチャイムが鳴り響いた。さっきよりも少しだけ体調がマシになったような、そんな気がした。



 授業が始まって数分、体調は劇的に変化した。それはそれは悪い方に。
怠いなんて物じゃない、苦しい。生命活動に必要な力を根こそぎ奪われているような感覚だ。思考を巡らせる事も儘ならない。座っているだけでも困難で、授業を放棄して机に突っ伏す。後ろの時臣を見れば、彼は少しだけ困ったようににこりと笑っていた。ごめん、君のお守りは風邪にはどうやら効かないみたいだ。



 「先生、衛宮君の具合が悪いそうなんで保健室に連れて行きます」

 「…………とき、おみ……」

 「立てるかい?」

 「………むり」



 ガタガタと机と椅子が煩い音、周りの生徒がどよめく声。どちらも今の僕には眠りに誘うBGMに等しいもので、そのまま倒れるように、いや、文字通り倒れた。