これの続き。






平和島静雄は死ぬ。
結論から言えばこれは確定した事実でありそれをねじ曲げる事なんて最初から出来なかったのだ。彼は高校の卒業が出来ないまま、そのあまりに早すぎる生涯を終える。それは逃れられない運命だ。ただ俺は、運命なんて信じてはいない。
卒業したら、街を離れようと思っていた。シズちゃんから離れることで、彼の逃れられない運命から逃げ出そうとしていた、俺が。



――ごめん、もういいから、ありがとな



何度も死んだ彼は、夢でその記憶を残していた。孤独な闘いだと思い、天敵を救うだなんてと嘆いていた。それでも喪いたくないと願い、次は上手くやれる、やってみせると思っていた。なのに、目を開けば、今日が。一日進んだ今日が、俺の希望を嘲笑うように主張している。

平和島静雄は死んだ。
それはつまり折原臨也にとっては大嫌いな天敵が居なくなって、これ以上ない幸運なのだ。嫌いで嫌いで早く死んでほしいのに死なない化け物が死んだ。
俺はそれを確りこの目で見た筈なのに、どうして、時計は正常に進んでいる?



「どうして」



シズちゃんは、何処まで知っていたんだろう。夢を見ると言っていた、自分が死ぬ夢を。化け物のシズちゃんが、死ぬときは一瞬だ。軽トラに轢かれても、ナイフで切っても平気なくせに、死ぬときはあまりに呆気ない。それはシズちゃんが人間だったんだと見せつけられているようで、酷く気分が悪かった。

屋上は立ち入り禁止になっていて、フェンスはひしゃげて無惨な姿だ。昨日があったんだ、確実に昨日はあったのに、どうして。どうして戻れないんだ。
喪いたくないと、願ったのに。

フェンスがなくなって、シズちゃんがなくなった場所に立つ。空を見上げれば晴天で、体育館からは歌が聞こえる。あぁ、嫌になるくらいに陽射しが強い。

いっそこのまま、落ちてしまえたら。










「死にてえのか、馬鹿野郎」



聞き間違える訳のない声がして、振り返れば制服を着たシズちゃんが、此方を睨み付けている。とうとう幻覚がみえるようになっただなんて、長い繰り返しの弊害だ。こんなにもシズちゃんに依存していたなんて、滑稽だ。



「化け物なんだから、死なないだろ」



少しだけむくれたように言葉を漏らしたシズちゃんは、昨日の事を言っているんだろう。謝らなくてはいけないのだけど、それでも俺は彼がここに居ることを実感したくて、シズちゃんを思いっきり抱き締めた。もう絶対に放すもんかと、しがみつくように抱き締めた。

それは陽射しの強い、春の事。












在る確率変動の話
(それは奇跡にも似た)