生きるとは、他者の犠牲の上に成り立つ

今迄に何人殺めたかと聞かれれば、数多と答えた。
今迄に何度其の事を後悔したかと聞かれれば、一度たりとも無いと答えた。
暗殺を生業として生きて、其れで生活している以上、そんな事を一々気にして居ては呼吸すら出来なくなる。殺めた人々にも失礼になる。其れが遭って私は生かされているのだから、後悔無けれど感謝と敬意が有る。こんな私の為に其方へ逝って頂いて有難う、と。

「よう、祐希」
「中也さん」
「此処には慣れたか?」

だけど、そんな私の身にも遂に危機的状況がやって来た。
殺め過ぎた代償...今度は私自身が追われる身となった。それは昼夜問わず、場所も関係なく、何時如何なる間合いも問わない。同業者にやっかまれても敵に回すとは...ポートマフィアの取引相手と知らずに殺ってしまったのは自分が驕り始めていた証拠とも云えた。

「団体行動は初めてなので未だ慣れませんよ」

生け捕りにせよと命が下ったと云う。
その後、向こうの首領の御前で首を刎ねる算段だったそうだ。其れだけの事をしなければ面子が立たない、と。

「孤高の暗殺者だったもんなぁ」
「.........馴染めなかっただけですよ」
「嘘吐きだな手前。慣れ合う気も無かった、そうだろう?」

命を受けてやって来たのは、裏社会でも有名な男だった。
対峙した瞬間に死を覚悟する程に実力差があった。だが退く事も出来ずに私は文字通り、生きて捕らえられた。

「.........本当に、馴染めなかっただけですよ」

どのみち表裏組織、主に財閥を解体した罪で死罪は確定していた。
何時でも死を覚悟して生きていた私に、ポートマフィアの首領はこう問うた。

今迄に何人殺めたか。
今迄に何度其の事を後悔したか。
.........死を目前に何を考えるか。

私は「魂の解放」とだけ答えた。
首領は盛大な笑い拍手と繰り広げた後に幼女に問うた。曰く、「友達が欲しいか?」と。

「まぁ、此処には手錬しか居ねぇし兵揃いだ。暴挙に出るなら其れも構わねぇぞ」
「私、自殺願望はありませんよ」

死は何時だって隣り合わせの状態でも、覚悟していても、私は死にたい訳では無い。
巷では死にたがりの暗殺者は少なくないと聞くが私はそうでは無い。私は、人を殺めてでも生きて居たい方なのだ。

「.........其れくらいに。中也さん」
「おー芥川」
「此奴にそんな度胸は無い」

私を、瀕死で捕らえた男がやって来た。
生け捕りとは、生きて捕らえる事だと分かっていたが...怪我の完治までに数カ月掛かったのは初めての事。
今も尚、腹部に生々しい傷が残っている。此れは一生、消える事は無いと診断された。

「仕事だ。行くぞ祐希」

あの日ほど、死を覚悟した事は無い。
目前の男は何事も無かったかのよう私を使うけれど、私は此の男に心底屈服した心算は無い。
だが、引き千切るだけの力が無い事をまざまざと見せ付けられている今、私は此の男の狗と成って果てるしか無い。


2016.06.18.

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