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人間を喰わなくたって生きていけるくせに。

そう悪態をつく部下の隣で、俺は今日も考え込むのだ。くだらない夢のせいで。

俺は、巨人を素直にまっすぐ憎むこいつを羨ましいとすら感じることがあった。そんな感情も、巨人について語り尽くす同僚を見て消滅するのだが。それでもやはり、俺の中に不可解で不愉快な感情が残る。あの、夢の中の女と巨人を全く別のものと考えるには、特徴が一致しすぎていた。

ガキの頃に見た、人を喰う女に育てられる夢。
あのおんなは、人間を喰うくせに、俺を食おうとはしなかった。非常食だと言うわりには、修行させられて。バレてないと思ったんだろうが、分かり易すぎた。あいつの、俺を死なせたくないという感情が。

あの時。俺も、そいつのことを殺したくはなかった。
今の、調査兵団の俺が出会ったならば人喰いだと分かった瞬間仕留めただろうに。あの時、俺は飢えていた。渇いていた。

夢を見ている間は満たされていても、そんな夢から覚めたとき、あるのは地獄のような現実だけ。

よりによって、幻想を見せたのは人間を喰べる女で。

ああ、あんな夢、見なければよかった。


***

「いらっしゃいませー」

私はあれから結局、バイトを増やした。お金に困っていたわけではない。余ってしまった時間の使い道に困っていたのだ。家を掃除しようにも、何故かやたら片付いているし、食事をしようにも、今月の分は済ませてしまったし、話し相手は、いないし。

前の生活に戻るだけのはずだった私の生活は、思ったよりも侵食されていた。だから、バイトを増やした。自ら環境を変えた。お金の使い道は、そんなにないけど。

私の元に残ったものといえば、買い置きしてある誰も食べないカップラーメンだとか、無駄に増えた掃除用具だとか、誰も着ない小さい服だとか、どれもゴミにしてしまえるようなものばかりで。

ああ。私は思う。そうだ、明日バイトもないことだし、家の中を整理してしまおう。片付けじゃない、整理。いらないものは、とっとと処分してしまおう。だって、いらないんだから。

結果、こんなことになるんだったら。食べないまま、逃がしてしまうんだったら。
…あんなガキ、拾わなければよかった。

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