6輪目

 

 表面上はいつも通り。心のうちは、どーだか分からないが、皆は任務についている。
 コムイさんから変なことを言われて、アレンくんも穏やかというわけではないだろうに見た目は至って変わらない。

 すべてはいびつに、平常通り。私も任務に向かうために、支度をして盾を担ぐ。まったく、この間あんな話をしたのが嘘みたいだ。私はベッドから立ち上がり、襟元をただす。――うん、完璧だ。つかつかとドアに近づくと、ノブをまわす。気配を感じて、右を向くと数個離れたドアからアレンくんが顔を出した。


「あー、アレンくんも?」


 ブラックだな、この職場。確かこの前帰ってきたばっかりだったよなー、アレンくん。休みすくなー。彼は苦く笑いながら、頬をかく。


「まあ……はい」

「大変だねー、アレンくんはこれから先も長いんだから、無理するとだめだよ」

「それはリズも一緒でしょう、お互い過労死しないよう気を付けないと」


 アレンくんは苦労しているのが似合っているなと心の中で少し笑う。とりあえず、それには曖昧に薄く微笑む。私には関係ないことだ。アレンくんは怪訝そうな表情だけど、もう行かねばならない。


「じゃーね」


 と声をかけると、彼より先に廊下をスキップで抜ける。やることは山ほどある。
 街に出ると一直線に駅をめざす――が、途中で雑貨屋さんを見かけて足を止めた。気になって中を覗き込むと、真っ青なガラス玉がアクセントになっているダリアの髪飾りが私の目を奪った。これはきっと妹の美しく長い髪の毛によく似合う。
 迷わずに店の中に足を踏み入れて、


「すみません、これください」

「はい、ただいま……こちら、プレゼントですか?」

「そうなんです。だから、とびっきり可愛くお願いしますね」

「承知致しました」


 受け取った小箱は想像よりかわいらしくラッピングされていて、店員さんの腕に感謝する。ピンクのレースでふんわりと幾重にも結ばれたリボンは、花を連想されて女の子好きしそうな感じだ。
 小さく店員さんに会釈したのちに、今度こそと駅を目指す。


「――っと、忘れてた」


 すぐ近くをうっとうしく飛び回っていたゴーレムを視認するとひっつかむ。地面にたたきつけると、躊躇いなく足で踏みつける。さすがは教団産、なかなか壊れてはくれない。ぐしゃり、ぐしゃりと何度も容赦なく地面に下す足。何回目かは覚えていないが、ようやく砕けましたといった所で目の前にミステリアスに美しい男が現れた。仕方なく動きを止めて、いやいやと話しかける。


「何かごよーですかね」

「いや、随分と派手にやってるなと思ってな」


 あきれたようにも、面白そうといった感じにも見える。放っておいてくれたらいーのに。いちいち姿を見せるなよ、気味が悪い。
 私はそれらを顔に出さないように、この麗しの君に笑いかけると「そーですか」と話を切った。この男に媚びる必要などないから最小限に。


「では、失礼しまして」

「ああ、じゃあな」


 小さく頭を下げる。急がなければ。
 駅に着き目的の汽車を探す。乗り込むとここぞとばかりにローズクロスを見せつけた。案内されるがままに席に座って、やっと一息をついた。


「いろいろ、あったな」


 思わず出た独り言。親族に言われるがままに教団と関わりをもち、そうこうしている内にともに過ごして居たものが亡くなり。ああ、彼は父のような人だったと浸る間もなくエクソシストに。今度は教団のいいなりになり。
 でも、仕方がない。
 すべては妹たちのために。救って守って愛してあげなければ。

 コートのポケットから包装してある小さな箱を、右手で目線の高さまで上げる。


「ダリアの花言葉って、なんだっけ?」


 ――まー、いいや。喜んでくれるといいのだけど。
 ガタガタと揺られる。目的の地まではどれくらいかかるんだっけ?時間は限られている。余生は楽しくすごさないと。


 


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