安心感



不親切の続き


アイツが会いに来たのは突然だった。あの雨の日から2日、3日、探すでもなく存在を意識するようにして校内を歩いても狂介を見掛ける事はなかった。わざわざ弟はどうしたと鬼柳に聞くのも何かしぶってしまい、そうして気にしないようにするかと思い始めた4日目の昼休み。廊下でクロウと話していた時にアイツは会いに来た。



「こんちわ先輩」

がさつな声色が背後から聞こえ、どう聞いても自分に言っているのだろうそれに少しばかり間を空けてから振り返る。
話していたクロウも不思議がって俺の背後を確認した。振り返った先には鬼柳と似た容姿の、けれど背は少し低く目付きの悪い青年が居る。制服の着方はだらし無く、校則破りなシルバーアクセサリーまで伺えた。青年はぐいと俺を見上げ、俺からの言葉を待っているようである。ので、俺は言おうと思っていた言葉はふつふつと思い出し、口を開いた。

「狂介、風邪でもひいていたのか」

「いや?」

「なら、何故校内に居なかった」

「……なに?叱りてェの?」

「…そういう事ではない」

狂介はへらへらと気楽に笑う。ああやはりこの青年の意図が読めない。今こいつが何を考えているのか、考えれば考える程にわからなくなって来た。少しばかり痛む頭を抑え、はあと溜息を吐いて見せる。

「学校はちゃんと来てんぜ」

「……そうか」

果たして本当に来ているのだろうか。欠席とは言わずとも、早退や遅刻、授業をサボったりなんかはしていそうだ。

「んで、さ。先輩に会いに来たのには理由があんだよ」

「……なんだ?」

狂介は俺の訝し気に出た返答に愉快そうに口角を上げる。やはり意図が読めない。皮肉な意味なのか、本当に愉快なのか、それても俺が意味もなく訝しむ事に対しての悲壮感を隠す為なのか。よくわからない。
何故隠すのか。隠す必要がわからない。俺より2つばかり年下のこの青年がどうしてそうも意図を隠したがるのか。知りたくはないが、不思議でならなかった。

「こないだは傘に入れてくれてありがとう。そーや、言ってなかったなと思って」

そう言い、狂介は後ろ頭を掻きながら小さく頭を下げた。その様を見て、言った事を頭の中で反芻する。暫し瞬いた後、意味を理解して俺は愕然、に近い妙な衝動に襲われた。

「…………それだけか?」

「なに、お返しに物でも要求すんの?」

「いや違う。そうじゃないんだが…」

「じゃあ俺、次移動だからもう戻る。じゃーな先輩」

「…あ、ああ」

ありがとう、だと?なんだその存外素直な言葉は。まだ吃驚とした感情が残ったまま、俺は暫くの間自分のクラスへと帰る狂介の後ろ姿を眺めていたが、とんとんと背中を叩かれて振り返る。そこには不思議そうに首を傾げるクロウが居た。

「ジャック、鬼柳の弟と仲良いのか?」

「ああ、いや…そうだな、多分、仲が良い」

「なんだよそれ」

はは、とクロウは苦笑する。再び見た廊下にはもう狂介は居なかった。大分移動が早いようだ。一人考え、クロウに教室帰るかと聞かれたので教室に戻る事にした。

そういえば、狂介はあの日もいきなり居なくなったのだったか。雨の中、駅までは一緒に傘に入って向かっていたのだが、人の多いホームが見えた辺りで狂介は忽然と姿を消していた。
消えてしまう前に俺の制服を汚してしまった事をほんの少しばかり謝罪していて、その時にもやはり意図が読めないと小首を傾げた記憶がある。

狂介を見て第一印象を良い印象で捉える者はいないだろう。俺も実際そうだった。ガラが悪ければ言葉遣いも目付きも悪く、笑顔は可愛い気のない不適な笑み。表情の変化が無いときも多く、他人に無関心なのだとも思える。
そんな男が、何故猫の死骸を埋葬するんだ。何故素直に謝罪をするのか。嫌な印象しか抱かなかった青年の行動に、些か頭が付いていけない。存外優しい人格なのだろうか。とも思うが、ならば何故ああも乱れた服装と悪い態度なのか。ああ混乱する。俺は物事の見方が固いのだろうか。



***



なんかまだ続きまする。自由でさーせんorz







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