SUGAR RAY



BRAIN SUGAR の後日みたいな話



ネオ童実野シティに行きませんかとラモンに言われた。遠いから嫌だと言ったら、じゃあ近くの大きめな街に行きましょう、と半ば縋るように言われる。
仕事をどっちゃりと持ち帰って家で熟していた俺は、じとりとラモンを見た。部屋で篭るのは嫌だからリビングで行っていた為に、辺りにはニコ達もいる。
今日は自分が仕事ないからって調子乗ってやがるなこいつ。睨むがラモンはやはり頭を下げるばかり。はあ。溜息を付いて、頭をかく。

「何しに?」

「いや、あの…」

「………」

しょぼんと、眉を潜めながら言い淀むその姿に少し罪悪感が募る。なにを隠そうこいつは俺の恋人だった。罪悪感もあると同時に多少の愛しさも顔を見せる。凛としてりゃあそれなりに二枚目なクセに、勿体ねぇ。
まあ、そこが好きなのもある訳だ。いつでも真面目なラモンは気持ち悪いな。誰だそれ。

「……まあ行ってやってもいーけどよ」

「え、あ、本当ですか!?」

「その代わりこの仕事終わってからな」

まだ時計は9を指している。昼過ぎからでも近場の街なら行けるだろうし、そう言えばラモンは快く嬉しそうに首を縦に振った。こういう仕種をするこいつは子供そのものである。まるきり、あれ買ってよと親にごねて上手く行った時の子供のそれだ。俺はそんなラモンの行動が結構好きだと自覚している。

数時間に向かった街は、サティスファクションタウン近場の場所だった。ネオ童実野シティ程ではないが名のある場所で、人が賑わっている。この場所程度の距離ならこの街の学校にニコ達を通わせるのもいいかもしれない。街に入って見えた道路脇の看板を見遣り、考える。

「ラモン!」

ぎゅう、と、腰に回していた腕を締めた。大声を上げると同時、信号に引っ掛かりバイクは止まる。恋人らしい事をしない自分らだとは自覚があったのだが、バイクに2ケツで乗るのは今思えば恋人ですっていう、そういう事になるんだろうか。
運転しているラモンを後ろからじとりと見上げ、くっつけようとはしない体を少し揺らした。

「呼びましたかー」

「何処に行くんだよ」

聞こえたのか聞こえないのか、ラモンは少し間を開ける。おいラモン、と言うと同時か信号が変わってしまいバイクが走り出した。わざとかこいつ。

しかし少し走ったその後、バイクは止まった。先程の信号を抜けた後に信号を一つも通らないくらいにすぐである。

「……あ?」

止まった場所を、ヘルメットを持ち上げて見遣った。見上げた看板には喫茶店と書かれており、店の外観は結構大人しそうな様子。外からよく見える店内には男女も中年も若い奴も入り混じった広い客層が伺える。

「此処に来たかったんですよ」

「……此処に?」

言われ、店内を再び見た。同時にバイクから下りるとラモンも同様に下りる。
店内は友人同士や家族連れ、夫婦が居た。しかし圧倒的に多いのは恋人同士らしい雰囲気の男女だろうか。
そういえばとその店の看板を見上げる。やはり、その店の名前はカップル人気スポットとこの間テレビでやっていたチェーン店化している喫茶店の名だ。ネオ童実野シティにも店舗を構えている。
中でも人気の商品はスペシャルストロベリーパフェだとかいう名前の、カロリー表示はしちゃいけないくらいに大きいパフェらしい。旬に合わせて名前と果物が変わるらしく、とにかく甘い物好きには必見…だとかそんな。

「ラモンお前、そんなにパフェ食いたかったのかよ」

相当な甘い物好き野郎だ。しかしパフェにもスティックシュガーかけそうだなこいつ。うげーと思いつつラモンを見遣れば、困ったように眉を寄せていた。

「…あ?」

「いや確かにパフェも食べたいですけど…」

「なんだよ?」

「店内見て何も思いません?」

やはり困ったようにラモンは言う。
休日の昼下がりという事もあってか店内は恋人達に溢れている。そして彼等は一様にあの人気商品を食べていた、なんとかパフェだ。もう名前は忘れた、知らね。
生クリームずくしのパフェにはふんだんにイチゴが乗っかり、アイスクリームが乗っかり、他にも俺が知らない何かしらがごろごろごろごろ…

「…胸やけしそうなパフェだな」

「……そう…ですね」

げんなり。ラモンは肩を落としている。なんだよお前はパフェ好きだろう、と思ったままに言えばラモンはやはり肩を落としたままだった。

「入らねーのか?」

「…いいんですか?」

「何が」

何か俺が断る理由があるだろうか。恋人の誘いで来た見せだ、入らない理由がないだろう。
目を丸くして、ラモンは「甘い物好きじゃないですよね」と困ったように言った。苦笑混じりなそれに呆れに近い息をつい吐いてしまう。

「いや俺は別に、ラモンがパフェ食いたいなら付き合ってやるよ」

「…それは」

「恋人だしな」

そうそう恋人だ。日頃ラモンには結構我が儘言うし、ラモンがパフェ食いたいんなら俺は嫌な顔せず首を縦に振らなくちゃならないだろう。
それにラモンの子供っぽいところが、やはり案外好きだ。甘い物食って喜ぶ姿は酷く子供らしさを際立たせる。

「あ…りがとうござい、ます」

「いいって。行こうぜ?」

顔を赤くしているラモンの服の裾を引く。ヘルメットを手渡してバイクを止めに行く事を促した。
待って下さいよと笑むラモンを振り返り、ああ子供は俺かもしれない、と、ぼんやり考える。悪いと一言呟いて、バイクを押すラモンの横を歩いた。




「すぐ入れそうですね」

「だな」

ほんの数段、少し階段を上った位置にある入口を覗き込むと、案外そこまで混雑していないのが伺える。人気人気と紹介されていたが事実ってのは何事もそうでもないのかもしれない。
まあ喫茶店、しかもスイーツ重視の店なんて入らないし好きじゃないから知らないだけで、本来喫茶店としてはそうも混む時間じゃないのかもしれない。

「席どうします?隅でいいですかね?」

店内に入り、店員を前にラモンは尋ねる。言われて店内をぐるりと一瞥して、あまり人の居ない隅を指さす。

「あの辺りはどうだ?」

「そうですね。あそこで」

俺へ丁寧に頷き、ラモンは店員へぞんざいにそう伝えるとそちらへと歩いて行った。質素ながら結構胸の部分が出ているエプロンだ、勿論下にはシャツなんかを着ているがその店員は胸がデカイから、なんだか目立つ。睫毛長いなとちらと顔を見た後にラモンの後ろを歩いた。
普通に女の子を可愛いとは思うがそれだけだ。最近はそういうのが多い、可愛い可愛いと見掛ける子を評価するがそれだけで、それ以上も以下もない。ラモンが居るから、以外の理由なんかはないだろう。

「奥どうぞ」

あまり人と話すのが好きじゃないのをラモンはよく知ってくれているから、奥まった席を俺に譲ってくれた。知り合った人間、知り合う人間ならいいが誰かも知らない人間と仲良くするのは好きではない。その代わり、友人達には執拗なコミュニケーションを取ってしまうのだが。

「ありがとな」

「いえいえ、あ、メニューどうぞ」

手渡されたメニューを受け取る。もう一度ありがとと言えば、やはり「いえいえ」と言葉が返った。ラモンは俺の世話を焼くのが好きだ、俺もラモンに世話を焼かれるのが意外と好きだった。
開いたメニューに広がる無数の甘味に嫌気もさすし、ちらとラモンを見遣る。目茶苦茶真面目な顔でメニューを見ていた。

(……真面目な顔、カッコイイよな…)

ぼーっと、少しだけ見惚れてからバレない内にゆるりと視線をメニューに戻す。言動がヘタレなだけで、質はとても男前だラモンは。たまにそれを垣間見る。それがたまらなく愛しいし、そしてそれが悔しい。

「俺はコーヒーと…サラダで」

流石に飲み物だけじゃラモンに気を使わせるかと、目に入ったサラダを挙げればラモンは頷く。やはりまだメニューを見ていた。本当に、真面目だな。滅多に見ない顔だ。

「この間テレビでやってたパフェ食うんじゃないのか?」

「あ、まあ、そうなんですが…他にも色々ありますし」

「……そうだな」

まあ確かに色々ある。俺には何も同じに見えるが、生クリームとなんかしらが乗ったなんかしらがメニューには沢山乗っていた。どれも甘ったるそうな色してやがるから本当に見るだけで胸やけしそう、というか、もう店内が既に甘ったるい匂いをしている訳である。
まあ別に甘い物が大嫌いな訳ではない。ただ特別食べたくないだけだ。

「じゃあやっぱりこれにします」

思いきった決断、とばかりにラモンはメニューのスペシャルストロベリーパフェとやらを指す。やっぱりそれなのか、とぼんやり考えている内にラモンは横を通り過ぎた店員を呼び止めた。
それは先程入口に居た店員で、なんだか嬉しそうにくるりとこちらを振り返る。どうしました、と少し伸び気味の語尾でラモンに向き直った。
胸デカイし顔可愛いし、足元すらりと長い。色っぽくて長い髪型も含めて結構俺のタイプの子だ。しかしどうにもやはり、なんとも思わなかった。可愛い、だけで、なんとも。メニューを開きながら注文を言うラモンを見遣ると、嫌に真面目な表情に胸がズンとうるっさい鼓動を鳴らした。本当にうるさい。あほ。静まれ。

「ああすいませんお客様、こちらは先程材料がきれたので注文出来ないんですよ」

「え?マジで?」

ふと、二人のやり取りに耳を傾ける。どうやらラモンの頼んだパフェが品切れらしい。店先にそう貼紙をしたらしいが、どうにも入店とかぶったようで俺達は見ていないようだ。
そして店員が言うにはそのパフェはこの時間帯には品切れになってしまうらしい。ああそういえばテレビでもそんな事を言っていたような。案外空いている店内に納得しながら、「別の物頼むか?」とラモンに尋ねる。ラモンは渋々と頷き、先程散々悩んでいた他の物を注文した。店内は快く微笑んでそれを受け、そうしてそのまま厨房へと歩いて行く。

「残念です…」

「まあ、しょうがないよな」

「…はい」

あからさにしょぼんとしているラモンに笑い掛けてやり、出していたメニューを片付けた。
そうして、ふと思う。ラモンはああいう女の子を見るとどう思うのだろうか。何もラモンが俺と同じ思考とは限らない訳だ。まあ先程はメニューをガン見してたから、そうも気にはしなかったろうが。

「こちら、フォークとスプーンになります」

「ども」

先程とは違う店員が容器に入ったフォークとスプーンをテーブルに置く。店長の趣味か店の趣向か、やはり可愛いめな女の子だ。ラモンはやはりぞんざいに店員に言葉を返す。
俺はと言えばラモンの反応が気になっていたから、じいとその店員を見ていた。やはり睫毛は長い、胸が小さいしショートヘアで小柄だから好みではなかったが、うん、普通に可愛い子だ。18歳くらいだろうか。
その店員と目が合うと、その子はぼんと顔を赤くして、そのまま一礼した後に小走りで去って行った。その後ろ姿を暫く眺め、背もたれに寄り掛かる。

「色男ですねー」

「…あ?」

「自覚なしですか」

「何がだよ」

「いえ」

暫く同様に先程の店員を目で追っていたラモンは肩を竦めて見せる。だから何が、ともう一度尋ねようとしたがラモンはこうなるとそうは言わない。折角二人で出掛けたのだから、喧嘩地味た事はしたくないし、追求はしないでおこう。

「…ラモンは」

「はい?」

「ああいう子、可愛いとか思うか」

ああいう、とラモンは呟く。そして違う席で注文を受けている先程の子を見遣り、「そうでもないですね」と返した。
そうでもないのかと考え、じゃどういう子ならそうでもあるのかとも考える。ラモンの好みってなんだろうか。

「もっと髪長い方が好きです」

「なるほど」

「あと背も高いくらいがいいですね」

そういうもんか。考えながらぼんやりと頷く。
そういえばこの間ラモンが読んでいた雑誌に、長い足を強調して見せるモデルが居て髪も長くて綺麗だった。ああいう女がタイプなんだろうか。一人頷く。

「ええと、鬼柳さんは?」

「ん?」

「可愛いと思うんですか」

「ん、まぁ、可愛いよな?」

好みではないけどと考えながら言えば、ラモンは眉根を寄せた。なんだその顔は。

「……一般論だけどな?」

「ですよね」

言えばラモンはあっけらかんと笑う。なんだなんだ嫉妬か。
…いやでも確かに先程の質問、同様に可愛いとラモンが答えてたら俺も同じ感じだったかもしれないな。

「……今度、まだ早い内に来ような。そしたらあのパフェ食えるだろうし」

「あ、はい…!」

ああ嬉しそうな顔だ。こちらまで頬が緩む。

それからはまあ、場所も場所だったから仕事の話ばかりをした。いやまあ元よりそんな、ラブラブするような性格ではないのだが。

注文した物が来て、渡されて、一瞬どちらに渡すかとパフェ片手に迷われたのだが腕組んでいる俺と、目を輝かすラモンに店員も察したらしくパフェはラモンの前へ置かれた。
このメンツじゃあどちらもパフェが似合わない自覚はある、残念だが。

「良かったな」

「はい!」

あーあー嬉しそうだ。パフェを目の前にあからさまに嬉しそうだ。場違いみたいにサラダに手を付けて、俺はラモンを見遣る。まるで子供だ。
ラモンの小脇にあるコーヒーには既に大量の砂糖が加えられている。パフェにそれだ、どれだけ糖分取るんだかこのオッサン。
と、ブラックのままである自分のコーヒーを飲む。甘い甘いラモンのコーヒーを前にブラックのコーヒーを飲む、と、なんだか先日の事を思い出してしまった。
カップから唇を離し、控えめにそこへ触れる。一人で馬鹿みたいにドキドキして終わった事だった、ラモンは何もしらない。かくゆう俺も、ラモンの口内が酷く甘かった事が強く記憶に残り過ぎていて細かくは覚えていないが。…顔が暑い。

「……鬼柳さん、顔赤いですよ?」

「…………顔洗ってくる」

「あ、はい」

なにを一人でてんやわんやしているだ俺は。恥ずかしい。
行ってらっしゃいませ、へらりとふざけるように笑うラモンに小さく手を振って遣る。そのまま手洗い場へ向かった。
ぺちぺちと頬を叩き、俯きながら歩く。別に舌入れるキスが珍しいからだとそんなんじゃなくて、いやそれもあるが、そうじゃあなくって寝てるラモンにというのが何か背徳的で、それから寝てるラモンは本当に本当にカッコイイなと思ったんだ。いや寝ている時に限らない、ラモンはカッコイイんだ。ただ、近くに居過ぎるだけで、ふとした瞬間に気付けない。

通用口と一緒くたになっているらしい手洗い場へ入り、閉める。清潔感ある鏡を見遣り、赤い頬に溜息を吐く。
水を出して手の平に当てて、暫く眺めた。冷たいしちょうどいいな、と思いつつもう一度溜息を吐く。
ばしゃっと辺りにあまり水が跳ねないように気をつけながら顔を洗い、ニコに持たされているハンカチを取り出して顔を拭いた。
まあさっきよりはマシか、と幾分か赤みの引いた頬を撫でる。なまじか地肌が青白いせいで、こういうのは分かりやすくて困りものだ。

手を丁寧に拭き、辺りに跳ねた水も少しだけ拭いてから外へ出る。ハンカチをしまって通用口になっているそこから出ようとして、けれど話し声が聞こえて足を止めた。別に立ち聞きとかする性格ではないが、これは仕方ないだろう。

「あの席の、キリュウサン?って人、カッコイイよね!」

キャピキャピと、ガールズトークだろうか。通用口の奥に見える裏口、少し開いたそこから聞こえる。声質的に先程の小柄な子だろうか。色男、とラモンに言われた事を思い出した。流石に俺だって馬鹿じゃあない、そういう意味かと今理解する。
まあいいやと今度こそ立ち去ろうとして、しかし足が止まった。何故かってそれは「あのラモンって人もさぁ」と、胸デカイ印象の強い店員の声が聞こえたからである。どうやら交代の時間で先程フロアにいた二人は休憩時間のようだ。
独特な語尾を伸ばすそれが、俺の呼んだラモンの名前を覚えてて言葉にしているのが何か嫌だった。何かというか、すごく嫌だ。

「私、キリュウって人よりあの人の方がいいなぁ」

「えー?わかんないな、歳くってるじゃん」

「バカ、大人の魅力よぉ。それにパフェ食べるのよ、可愛いわぁ」

そうそうラモンは大人の魅力あるよな、うん、わかる。煙草吸う姿がどんだけカッコイイかってんだよ。そんで甘い物好きっていうのがまたな、ギャップが可愛いよな、うん。
よしミーハー女子なんか気にしない、今度こそ行こうと足を踏み出す。しかし次は足は止めなかったが、逆にそれがいけなかったのかもしれない。
とても楽しそうに、私あの人に連絡先渡しちゃった、と、声が聞こえた。
……連絡先?
くら、としながら俺は歩いた、というよりは立ち止まって話を聞く勇気もなかったというか。情けない話だ。
そうかそうか連絡先を渡したか、そうか。いやしかし残念だったな、ラモンには俺という恋人が居てだな…居てだな…。
あああの女、髪長いし背高いよ、な。ラモンの好みじゃねぇかよ…マジかよ。
いやでもラモンがそんな軽薄な奴じゃないのは知ってる、けど、不安というかすごく嫌な感じがする。とてつもなく嫌な感じだ。下腹部がぎゅうとする、なんだか吐きそうだ。

「顔色悪いですよ」

「あ、ああ」

顔赤くして行ったと思えば、とラモンは心配そうに言う。俺はなんとか笑い返して自分の席へと着いた。
ラモンはもうパフェを食べ終わっていて、俺もサラダは既に食べ終わっていたので互いにコーヒーだけが残っている。
少し冷めたコーヒーを口元へ運び、向かいにいるラモンを見た。ラモンは何もなかったような顔でコーヒーに更に砂糖を足している。まあわざわざ「連絡先貰っちゃいました」なんて言わないよな…。だが、あの口の中の味は俺しか知らないんだからな、と、そう考えると多少気が楽になった。気がする。はあ。


結局俺は喫茶店を出るまで、なんだかギクシャクしたままだった。だって気になるのだから仕方ないだろう、気になる。
ああだからもうどんだけラモン好きなんだよ、って。悔しいな。

「鬼柳さん?」

「え、あ?」

「大丈夫ですか?」

バイクを止めた場所まで並んで歩いていた。隣にラモンが居た筈だったが、気付いたらラモンは先にバイクの横に立っていて、俺は何歩か離れた所にいる。とぼとぼ歩いてしまったのか。
少し速足でラモンに近寄れば、ラモンは眉根を寄せて俺の頭を撫でた。

「さっきから様子がおかしいですよ?」

「……う」

「心配で仕方ないですから、そういうのはキチンと言って下さい」

お前のせいだよ馬鹿野郎。泣きそうなんだ。よくわかんないけど苛々する。お前貰った連絡先どこにしまったんだよ。それ、破ってやりたい。
言いたい言葉が口の中でぐちゃぐちゃになって、最終的に何も言いたくなくなった。なんつーか、すげー醜いな今の俺。

「ばかが…」

「え?」

「このアホ野郎、バカ」

何目を丸くしてるんだよ。もう嫌だ色々考えてぐるぐるして悲しいのは俺だけかよ、そうだよなラモンは大人だもんな、ヘタレだけどこいつ実は目茶苦茶余裕ある奴だからね、余裕ぶるからね。苛々する。

「鬼柳さん?」

「何がキチンと言って下さいだよ」

「あの、」

「お前こそ隠さずに言えよ…アホがぁ…」

くしゃ、と、限界だった。ボロボロと涙が溢れてしまう、ガキかよ自分、あアホは俺だよその通り。
わたわたとあからさまに慌てるラモンを尻目に、泣いてる顔なんて見せれなくて俯いた。言葉尻が異様に震える。

「連絡、先…貰ったん、だろ」

何言ってんだか俺。馬鹿だな、馬鹿としか言えないっつの。第一バイクに二人乗りとかする仲だからな、ラモンから告白して成立した仲だからな、分かってるっつの、俺は自分見失うくらいに馬鹿じゃないつもりだったんだけどな。恋は盲目って言葉がなんか浮かんだけど、多分使い所は全く違うと思う。

「あのですね…」

「ラモンは、背高めの長い髪の女が好み、なんだろ、だから俺」

うわすげぇ言い訳だ。だから不安です、ってか。やっぱり俺は馬鹿だ。
不意に、抱きしめられた。ぐちゃぐちゃな思考のままぎゅうと抱きしめられて、周り見えないくらいに胸元へ顔を引き寄せられる。おい、と呼ぶがラモンは何も言わない。ラモンの体は案外暖かい。安心する。

「すいません」

「…んだよ」

「嬉しいです」

「は」

「嫉妬ですよね、それ」

鬼柳さんって結構淡泊ですし、と、ラモンは俺を強く抱きしめた。何が、と無理に顔を上げる。ラモンは顔を赤くして笑っていた。

「俺にすれば、鬼柳さん以外の人は皆おんなじですよ」

「でも、さっき好みとか、言っただろ…」

すぐに質問を返す俺はまるで子供だ。ラモンはそんな俺を愛しげに笑う。おかしい、いつもと立場が逆だ。
髪を梳くように頭を撫でて、ラモンは言う。

「俺は背が高くて髪の長い人がタイプですよ」

「だから、」

「アンタは鏡見ないんですか」

言われ、考える。何故鏡を見る必要が、とまで考えてぼんっと顔が暑くなった。うわぁ俺、うわぁあ、アホはやっぱり俺だ。
俺の肩より長い髪の毛を毛先まで指で梳き、ラモンはくつくつと笑う。

「折角のデートに、知らん奴の連絡先なんて受け取りませんよ」

「デート…」

「あの人には悪いですが、テーブルに置いてきました」

言い、ラモンは俺の顔を覗き込んだ。今は引いた涙を俺は拭い、ラモンを見る。ラモンはやはり笑う、俺はといえば眉根を寄せた。

「ごめんな」

「いいえ」

ラモンは笑う。いつも人触りよく笑う。でも今思えばその顔は他人には滅多にしないのかもしれない。嬉しい、と、思った。

約束通りまた来ましょうね、と照れながら言うラモンに頷いて返す。馬鹿な俺はそこでやっとわかった、そうかデートだよな、と。パフェ食べたかったんじゃあないよな。
もう一度、ごめんな、そう呟けばラモンはお決まりに「いいえ」と笑って、俺のつむじにキスをする。
甘い香がしそうだ、と、ぼんやり考えた。



***



なげぇよっていう。そして最後ぐだぐだだよっていう。
甘々修業です、本当に意味なく長くて申し訳ないですorz










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