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暇人ラモンと京介君
*
コンビニで雑誌を立ち読みをする。ガラス越しに伺える空は、ゆっくりと夕方の色をしようとしていた。
あと一時間くらいかなと一人考えて、ジュースを適当に一つレジで精算する。あとは適当に公園で過ごそう。
店員の爽やかなありがとうございましたの声と共にコンビニから出た。クーラーのきいた店内から一歩出ただけで、むわりと暑くなる。さっそく冷えたジュースを飲むかとシールのみ貼られたペットボトルに手を掛け、そして同時に俺は出た先に居る人物に気付き、思わず眉を潜めた。バイクから下りているその人物はヘルメットを外すと俺に気付いたらしく、目を合わせてへらりと笑う。
「よう京介君」
「……誰ですか」
「うっわーキツいなぁ。え、俺の事嫌い?」
「はあまあ」
傷付いたなぁ、と笑うそいつを気に止めずにそのままペットボトルのフタを開けた。そして一口飲む。その間もそいつの視線はこちらに向いていて、うっとしい。
こいつはラモン。母さんの商売相手の子供に手を出す変態だ。不健康さは尋常じゃないしなんか馴れ馴れしいし何の仕事してるのかもよくわからない。好きになりようもない奴である。考えて思わず溜息を吐き下した。
だがこうして一人で暇を持て余している時にばかり現れるのだ。そして、なんだかんだで家に帰る時間まで一緒に過ごしてしまう。
「なんか買ってあげようか?」
「要らない。なんかと引き替えにされるから」
「しねーよー。なんか欲しいモンある?」
「ないです」
ペットボトルのフタを閉め、ラモンの居る場所とは反対側に歩き出す。ラモンは俺の名前を楽しそうに呼び、そしてそのまま着いて来た。肩を落としてから振り返ると、バイクを止めて着いて来ている事がわかる。
なんなのだろうか、こいつ。
はあ、と再び溜息を吐き、仕方なく足を止めた。なんだとばかりに睨みながらラモンを見上げると、ラモンはやはり不健康なにへらと笑うそれでもって返し、近場の電柱を指差す。
意味がわからず、その指差した方向を一瞥。しかしやはり意味がわからないので、またラモンを見上げるとラモンは笑った。
「よく見てみろって」
「…?」
「紙、貼ってあるだろ?」
ああ確かに貼ってある。電柱に貼られた、下手くそな子供の描いた絵が大きくプリントされた紙。そこには絵に負けずに大きな字体で“夏祭り”と書かれていた。
それがなんだというのか。開催日時は今日で、開催場所も近場らしい。ふーんと紙に書かれた記述を見終え、で?とラモンを見ると、何故たか手を掴まれた。バイクに乗る際に付けるらしい革の手袋の感覚がする。
というか何をこいつは気軽に触っているんだ、とラモンを見上げると、ラモンは楽しそうに笑っていた。
「一緒に行かない?」
「嫌に決まってるだろ」
「即答かぁ」
やはりめげずに笑っている。ああコイツは馬鹿だ。
第一、何故こんな奴と祭に行かなきゃならないんだ。馬鹿過ぎる。
(……母さんとなら、まだしも)
母さんは祭とか、そういうの好きじゃないからな。ダメだろう。今までも一緒に行った事なんてなかった。自分一人で祭に向かっては、何も買わずに帰って来た。
……なんだか考えて、悲しくなって来た。
こんな事考えなくてもよかったのに。次第に少しずつ苛立ち、溜息を吐いて何も言わずにその場から立ち去ろうと踵を返す。
ラモンが名前を呼んだ。心配そうな声色なのがまた、なんだか苛付く。
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