理解



ラモン→25歳
京介→15歳
現代パロディ、一人っ子設定


俺の家族は母親一人だけだった。母親は体を売る事を生業としていて、仕事場は自宅の狭いアパート。俺が物心付いた時にはもう母親はそれが当たり前な顔でいて、まだ小さかった俺は母親が仕事をする時はいつも押し入れの中で布団に包まって縮こまっていた。すぐ隣の部屋で母親が仕事をしていて、幼かった俺には何をしているのかがよく分からなかったが、だが一度覗き見た光景は母親が男性に虐められているようにしか見えなくて、それで俺は怖くて怖くて押し入れへ逃げてしまったのだ。
最初は勿論自分の弱さに涙したが、だが次第に母親のしているコトが分かって行き、ただ耳を塞いで自分の感情をシャットダウンする事ばかりを優先した。

10歳になると、母親は仕事をする時には外に出ているようにと言うようになる。毎回500円玉を俺の手に握らせ、俺の薄白銀の頭を撫でた。母親は俺の頬を撫でて愛でるのが癖である。理由はきっと、母親が大事に持っている写真だ。その写真には少しばかり若い母親と、薄白銀の髪をした元気な笑顔の男性が仲良さそうに写っている。
あれが自分の父親だと確信したのは12歳の時だった。別に何かきっかけがあった訳ではない、ただ世間を見て、感じて、色々と学んで行く中で自然とそう思い至っただけ。


今俺は15歳。母親はまだ仕事を続けている。母親は今32歳だ。
あの人は綺麗。年相応の雰囲気はしているが、物越しや仕種なんかは年齢を感じさせない。寧ろ雰囲気が荷担して儚い綺麗さを持っている。だからまだ体を売れるのも当然だ。

相変わらず住んでいるアパート。最近は母親が仕事をする時はマンガ喫茶に行ったり、友人の家に行ったりしている。けれど帰って来た時には不可思議な感覚が毎回した。
母親は先程まで男の上に乗って喘いでヨがって金を稼いでいたのだと。別に苛立ちだとかはない。ただ変な感じがする。


母親は日曜日は仕事をしない。何故かは知らない。母親は日曜日は必ずパチンコをしに行く。
だから一人で部屋で過ごしていた。勉強に集中出来る性格ではないから、ただごろりと床に寝ている。眠気はないが、ただこうしていると色々と思考して考えを纏められた。

そうして普段通り休日を過ごしていると、煩いチャイムが鳴る。一度だけ鳴らされたそれに身を起こし、ゆるゆると怠い体を引きずって扉を開いた。
開いた先には見覚えのない人物がいる。
宅配便にしては制服でないし、押し売りにしては手ぶら。新聞関連でもなさそうだ。黒いコートにチャラいシルバーアクセ、洒落気に垂らされた黒髪。180以上か、見上げる角度にある顔を見て、首を傾げた。

「母なら今は居ません」

「っ……あ、と。そうか…ああでも、お母さん居なくても大丈夫だから」

話し掛けると男性は俺をじっと見ていた視線を即座に避けてそう言う。はあそうですか、と呟いて答えた。じゃあ用件はなんだ。

「昨日来た時に忘れ物したみたいなんだけど…なんか預かってるかな」

「…?いいえ。何忘れたんですか?」

忘れ物、という事はこの男性は母親の客だろう。記憶を手繰り寄せて、何も預かっていない事は確実だと分かる。こういう事はよくある事だ。客に愛想尽かされると俺、怒られるから敬語は標準。

「こういう感じの指輪。結構高かったんだわ」

「…ちょっと見てみます。あ、どうぞ上がってて下さい」

言って部屋に男性を通す。男性は小さく、どーも、と呟いて中に入った。テーブルに座ってて貰うよう言い、冷蔵庫に入っている飲料を好きに飲んで下さいと伝える。忘れ物があった時の普段のパターンだ。
そうしてそれから、奥にある母親の部屋に入る。6畳の部屋。
棚とちゃぶ台以外は何もない。布団は押し入れに入っている。殺風景なそこを見渡すが、どうもあるとは思えない。

仕方なく押し入れから布団を引っ張り出し、押し入れの中を見てみる。入れた時に引っ掛かっていた指輪が落ちた、とはない事ではないだろうし。

ないと分かると、また布団を押し入れに戻した。そうすると、間違えて捨ててしまった、とかだろうか。置いてあるごみ箱を漁ると、処分されたばかりなのかあまりゴミは入っていない。

「あった?」

「…あ。すいません、まだ…」

「…そう。あ、いいから、急がなくて」

「……はい」

いつの間にかこちらの部屋に来ていた男性を見上げ、頭を小さく下げる。男性はにこりと笑った。不健康そうな笑顔。
気にせずに今度は棚を見る。本があって、それを退かすとひらりと紙切れが落ちた。

「……あ」

「ん?」

拾おうとして、男性に拾われてしまう。ひょいと拾い男性は紙切れを眺めた。
よく見るとそれは写真で、しかもそれは若い母と恐らくであるが父が写つっているやつだ。しゃがみ込んで見ている男性は、写真を一瞥するとその写真を俺に手渡す。俺も受け取る。

「お父さん?」

「……わからないです」

「そっか。でも、仲良さそーだ」

「……」

「ん。妬けるな」

そう言って男性は笑う。今度はへらりと情けない表情だ。俺は首を傾げる。妬ける、とは、どういう事だろうか。
俺を見た男性は、あははと笑って立ち上がった。俺を男性を見上げる。

「俺、君のお母さんが好きなんだ。美人さんで優しくて」

「……そう、なんですか」

「うん。でもそれ、古い写真だろうに比較的綺麗なまま…ずっと大切に持ってんだろうな」

「………」

男性は自虐気味に笑い、俺の頭をポンポンと撫でた。
それから再びしゃがみ込み、俺の髪を撫でる。まだ少し高い位置にある男性の顔を眺めて、それから首を傾げた。

「君、お母さん似だよな」

「……俺は男です」

「そうだな。でもとても美人だ」

「…俺は母と違って、買えませんよ」

「ああ、察しいいのな」

そう言うと、男性は俺の両手首を掴んだ。ぐいと引かれ、男性の背中の方まで引かれた腕のせいで体制が崩れる。ぽすんと男性の胸元に額が辺り、それから手首は解放された。しかしすぐに後頭部に片手を添えられる。
く、と顔を上げられ、男性と目が合った。不健康そうにへらりと笑んでいる。

「ラモン」

「……は?」

「俺の名前」

言って、男性は間の抜けた声を出してしまった俺の後頭部を引き、腰にもう片手を回して俺の鼻先に自分の鼻先を寄せる。呼吸が細かに確認出来る距離に身を攀った。

「……ラモン、さん。俺、母に叱られます」

「京介君だっけか」

「…聞いてますか?」

「京介君、俺は玄関先で君に一目惚れしました」

「……は?」

そう笑うラモンとやら。くつくつと愉快そうに笑った後、俺の唇を親指でなぞった。ぞわりと腰から寒気がして、先程より真剣に抵抗をする。母親の客だろうと関係ない。こいつは変態だ。

「んっ、…な、…んぅ…ッ」

呆気なく抵抗した体を壁に押し付けられ、両手首を片手で楽に拘束される。それからキスされた。触れるだけかと思うと、呆けて開けてしまった唇ににゅるりと舌が割り入る。ぞわりとした感覚に涙が溢れて、けれどその舌は気にせずに縮こまった俺の舌を絡め取った。

「っ…んぅ、ん…んっ…」

くちゅ、と水音がする。次第に思考がぼやけて、角度を変えて施されるそれにはされるがままになってしまった。
そうしていると、腰に添えられていた掌が動く。いきなりのそれにびくんと肩を揺らすと、唇は離された。

「今自分がどんな顔してるか分かってるか?」

「っ、ぁ?…はぁ?」

息が荒い。涙がぼろりと溢れて、少し唾液が垂れてしまった口端を拭う。涙で見えにくい視界でラモンを見上げると、頬を撫でられた。

「なあ。京介は体、幾らなら売れる?」

「…………300万」

「うわあ」

楽しそうに笑うラモンに腹が立って、壁を押してから全力でラモンを押すと、漸くよろりと退いた。

「300万かぁ…。200なら貯金あんだよな…」

「……馬鹿じゃないのか。冗談だ、アホ」

「…なんだそれ。可愛い」

それとは口調を指すのか。ただもう母の客としての扱いに値しないと判断しただけだ。喧しいな。

「つか俺、15歳…犯罪ですよオジサン」

「え?……若いのな。てっきり17は行ってるかと…」

はー、と荒い息がようやく整ったので立ち上がる。ラモンはまだへらへらと笑っていた。



***



とりあえず何かしらうpしたいなと思って雑書きしました。誤字脱字は見逃してやって下さいorz

たまには敬語な京介とか書きたかったの。







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