昼食を兼ねた朝食を取って、俺達はまた街へと繰り出した。どこに行くというわけでもなく、ただ思いつきで歩く。

通りかかった雑貨屋を覗いて、柳生が行きたいというから本屋に行って、俺の好きなブランドの店に入って。

そこでふと俺の目に止まったのは、シルバーアクセ。キリストを抱いたマリア像と、その下に垂らしたクロスの。

何より良いのは、キリストを抱くマリアのその姿。細部まで丁寧に彫られたそれと、傷つけるように敢えて刻まれた鋭利なライン。茨に覆われたクロスも含めてどこか背徳的な、俺の感覚での一級品。


「それ、気に入ったんですか?」

「おん」

「ではそれにしましょう」

「バカじゃな、柳生」


バカ、という言葉が気に障ったのだろう。柳生は一瞬だけ眉根を寄せた。


「気に入ったんでしょう? きっと似合いますよ」

「よぉ見てみんしゃい」


俺が指差す、ショーケースの中のソレ。ライトに照らされて鮮やかに輝く銀色と、くすんだ色が渋い燻し銀。

色が若干異なる、二種類のピアス。


「俺は開けとらんじゃろ」

「それでは使えませんね……。こちらのアラベスクペンダントなど如何ですか?」

「お前……店員みたいな口振りじゃな」


ちなみに柳生が指したペンダントは既に持っている。それを言えば、柳生は「仁王君に似合いそうですね」と言いながら微妙な笑みを浮かべた。

たぶん、俺に似合うと言ったそれは本音だったのだろう。だからこそ、自分が買いたかったのかもしれない。

他ならぬ俺のために。

あくまで俺の憶測。でもそうだとしたら、本当に嬉しい。

俺の口元が、自然と笑みを形作る。


「やーぎゅ、少し休憩せんか?」














入った喫茶店は、柳生行き着けの店。店内に飾られたアンティークのシックな雰囲気が、柳生に似合う。


「柳君とたまに来るんですよ」


微笑んで紅茶を口にする柳生に、内心苛立つ。でも納得はできる。ここの雰囲気と向かい合って話す参謀と柳生の姿を浮かべれば、頷かざるを得ない。

確かにここに共に来るならば、俺ではなく参謀の方がしっくりくる。


「カプチーノも柳君がよく頼むんですよ」


カプチーノを手にした俺の左手が、ピタリと止まる。


「それからこのチーズケーキもよく食べるんです。柳君はレアチーズケーキの方が好きみたいですけど……」

「のぅ、やーぎゅ」

「はい?」

「参謀の話はやめんか?」

「……はい?」

「俺の誕生日じゃけ」


ソレどんな理屈じゃ、と自分でも思う。案の定、柳生はわけが分からないという顔で首を傾げている。

単純に、俺の気持ちの問題じゃ。

参謀に嫉妬するなんて、やっぱり俺はこの紳士様が好きなんだと実感する。参謀と柳生の仲が良いのは今に始まった事では無いし、単に気が合うだけの話である事くらい知っとるのに。


「ごめんなさい、仁王君」


あぁ、ほら。柳生が俯いてしまった。何となく俺も手元に目を落とす。

どちらが悪いかと問われれば、間違いなく俺じゃ。俺の気持ちなど柳生が知るわけもなく、ましてやそれを押し付ける事など、できない。


「あ……」

「どうしました?」


突然呟いた俺に、柳生が顔を上げた。キョトンとした表情が妙に幼くて可愛い。


「柳生。プレゼントな、ピアスが欲しいんじゃけど……」

「ですが仁王君は……」

「おん、開けとらん。けど欲しいんじゃ。何でも良い。柳生が選んで、それをくれ」


本当に何でも良いんじゃが、柳生はたぶん、さっきのピアスを選ぶ。そして俺は、それを一生大事にする。

例えば学校を卒業して、柳生と離れて、柳生が誰かと結婚しても……柳生にもらったピアスだけは手元に残る。俺は物持ちは悪くないから実際に使う時が来ても、使わなくなっても、大切にするだろう。

完全に、俺の自己満足じゃがの。

ついでに、


「分かりました。では後日、お持ちします」


真面目な柳生の事。学校に持ってくるなんて事はしないだろう。つまりはまた後日、デート決定じゃ。

柳生が笑う。俺の好きな、紳士の笑顔。


「改めて……誕生日おめでとうございます、仁王君」


けど俺は、別にお前の事を諦めたわけじゃない。いつか俺の物にしてやるき、覚悟しんしゃい、やーぎゅ。
「……プリッ」


照れ隠しのように、俺は一言だけ呟いた。








Happy birthday 仁王 雅治 !!

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