夕食を作っていた時、不意に柳生は思い出してしまった。
数日前、ここで仁王に抱かれた。エプロン以外、何も身に纏わないという状態で。
裸エプロンなんて、ただの変態がやる事だと思っていた。ところがいざ自分がやってみれば、なんだかんだで盛り上がってしまった。
しかも途中からは自ら仁王を誘う始末……不覚以外の何物でもないが、楽しんでいたのもまた事実。キッチンでしただけでは足りず、ベッドに場所を変えてからも何度身体を重ねただろう。理性が飛んでいたのか、覚えていない。
「あの時はどうかしてたんです。疲れてたんですよ、きっと」
頭を振りながら自分に言い聞かせて、柳生は鍋をかき混ぜる。
そんな柳生の目に、つけたままにしていたテレビの映像が飛び込んできた。
よくあるバラエティー番組で、タレントがメイド喫茶を体験するという企画なのだろう。そんなものとは無縁そうな中年の俳優が、躊躇いながらも「魔法の言葉」を唱えている。
隣にはフリルのエプロンを身に付けた、店員と思われるメイド。おまけに猫耳と尻尾、首元には鈴までついている。
両手で猫を真似た仕草をして「にゃん」と言いながら、メイドは可愛らしい笑顔をカメラに向けた。
「猫耳とメイド服……仁王君はどちらが好きでしょうか……?」
ぼんやりと考えて、柳生はハッと我に返る。一体何を考えているのだろう。これでは自分がそれを望んでいるかのようだ。
出来上がったカレーを注ぎながらも、頭をよぎるのは先程のメイドの姿。内心で否定しながらも気になるが、入手経路が分からない。
しかしその時、不意に一人の人物の姿が頭をよぎる。何でも知っている親友。物知りな、知らない事など無いのでは、と思える彼。
「とりあえず柳君に聞いてみますか」
解決の糸口が見つかった柳生は、機嫌の良いままに仁王を呼んだ。
〜fin〜
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