記憶
耳にこびり付いて離れない音がある
大きなクラクションの音が私の耳から離れない
振り返って目が合った彼の顔がうまく思い出せない
人は声から忘れていくらしいと語った彼の声は既に思い出せず
憎たらしく笑った顔も朧げである
それは寒い冬の日だった
マフラーを忘れた私に呆れた顔を向けて自身のマフラーを首に巻いてくれた
その時触れた君の指の体温すら思い出せない
人の記憶力は無限ではなく一つ覚えたら一つ忘れていくものだ
その一つが君になるだなんて思いもしなかったよ
こうやって私は君と過ごした時間全てを忘れていくんだね
憎たらしく笑った君の顔が好きだったよ
今はうまく思い出せないけれど
きっと君の声も好きだった
一人取り残された私はどうしたらいいのだろう
何も思い出せないのに三年前の寒い冬のあの日から私は一歩たりとも進むことができません