09




「確かあのときは薬品開発のためにロシアで有名な麻薬ディーラーが……ん?」
 報告書のために情報を遡っていたふとした瞬間、バーボンと安室が保持しているはずの記憶を当然のように自分のものとして想起していることに降谷は気づいた。降谷は終わりが近づいていることを悟る。しばらくは先でいい、と思った矢先のことだった。
 安室として過ごす時間を今までより多めに割いてはくれないか。安室からの突然の要求を、安室に残された猶予が残りわずかであることを理解した降谷は二つ返事で了承した。多少は悪いことをしたという気持ちがあったからだった。
 バーボンが安室の記憶を降谷に同期し、あたかも降谷が安室を演じているように思い込ませていたのは、バーボンだけでなく安室まで人格が分かれてしまったことへの重圧を降谷に与えないためだ。理由があったとは言え、存在をないものとして扱ってきた安室の心中を思うといたたまれない。
 安室は降谷に必要とされて生まれた存在ではない。裏社会に適応するべく降谷の深層心理が欲した副人格、バーボンにとって不要なものが演技の過程で剥離された末路である。
 だからこそ、安室は己を必要とする人間を欲し続けた。それが恵だ。警戒心の強い恵はたった一目で安室の存在を理解した。安室にとって、自分を作り出したバーボンの他に自分を認識した人間というのは、それだけで何ものにも代えがたい価値があったのだ。
 安室に与えられたのは、ポアロと、私立探偵という立場と、恵を想う自由だけだ。降谷はそんな安室に遠慮して、恵に会うことがないよう細心の注意を払っている。安室の記憶と共に流れ込んでくる恋情は降谷の心を揺らしたが、組織掃討作戦の後処理に打ち込むことで抑え込んだ。
 対するバーボンはすっかり鳴りを潜めている。もはや、降谷が声をかけなければ自我が残っているかさえわからないほど静かにしていた。組織が壊滅した今、もはや表に出る必要はない。最後に話したときのバーボンはそんな気配を漂わせていた。
 人格統合がこれほど早く叶う理由を理解したのは、終わりを予感してからまた数日が経過した頃だった。このとき、降谷はすでに二人のほとんどの記憶と感情を手にしていた。
 バーボンは降谷によって本懐を遂げ、安室は恵との関係に落としどころをつけた。望みが果たされ、思い残すことがなくなったから消えることを受け入れたのだ。
 降谷は、何よりもバーボンの胸中を知って愕然とした。バーボンが己を渇望していたのだとは思いもしなかった。
 降谷が助けを求めて生まれた存在であるにもかかわらず、バーボンは降谷から救いを求められたことがない。降谷が悪事に手を染めることを許せずに分裂させたからこそ、降谷はバーボンを許容してはならなかった。故にバーボンは長年満たされず、しかし降谷の正義にしたがって生きていた。
 降谷を強制的な眠りにつかせていたとき、バーボンが一時的な拘束を緩めたのは、降谷の不安が裏≠ナ募るのを防ぐためだ。行動力のある降谷を一時的に開放し、満足のいくまで自由にバーボンを疑わせればストレス発散になると意図的に人格の交代を行った。
 確率が低いなか、降谷が恵に会ったのは計算通りでもあり誤算でもあった。降谷を救えるのは他ならぬバーボンであるというのに、降谷が恵を頼りにする事実は想定できていても心を掻き乱された。あまつさえ唯一頼れるとまで口にされてはバーボンも黙ってはいられなかった。だからバーボンは存在意義を全否定された感覚に陥り、強制的に人格を交代して衝動のままに恵を責めた。
 結局は恵と風見の助言があって降谷はバーボンを信用するに至っている。加えて、念願かなってバーボンの存在を許した。降谷に救いだったと言われたとき、バーボンは初めて満たされていた。
 ことが終わればこれほどあっけなく何もかもに区切りがつくのかと降谷は茫然とする。何年も傍にあった存在がいなくなったとき、自分がどうなるのか、それを考えれば降谷は指先から冷えていくような錯覚を抱いた。
「……あいつらが消えたら、彼女も消えるんだろうか」
 降谷が抱いたものの名は恐怖だった。
 かつて朋友を失い、無二の親友を失っても、彼らの志を抱えては死ぬに死ねない状態だった、今にも糸が切れそうな降谷を救ったのはバーボンと安室だ。自分と同じ存在である二人を失っては、今度こそ耐えられないかもしれない。そして二人によって知り合えた恵を降谷は繋ぎ止める自信がない。恵までいなくなれば、降谷は──握った拳に力が入る。
『……零って、意外と馬鹿なんですね。みっともなく縋ればいいんですよ、あの日みたいに。犯罪は執拗に追いかけるくせに何で他ではそれをしないんですか?』
 裏≠ナ安室が降谷を笑い飛ばした。
『何に遠慮してるのか知りませんけど、幸せになればいいじゃないですか。君にやさしい未来を贈るために、僕達は生きてきたんですから』
 日本をより良い国にしたいと願うのに、自分が不幸の只中にいてどうやって他が幸福に包まれていると知ることができるのか。もう安室の言葉かバーボンの言葉かもわからない言葉が降谷に流れ込んでくる。降谷の代わりにだれかを大切にしてきたバーボンと安室の感覚が流れ込んでくる。
 まるで皮膜であった。降谷を守り生かすために不要なものを隔離する。いつでもその薄い壁を突き破り、全てを奪い取ることも可能だったに違いない。ただそれを良しとせず、人体になくてはならない皮膜のように、二人は降谷の傍に在り続けた。人体は皮膜を失っては生きていけず、その皮膜が失われることは命あるかぎり有り得ない。バーボンと安室は消えるのではなく、自分の中へ戻っていくのか。降谷は両手で顔を覆った。



 安室がポアロを辞めるらしい。
 最後の勤務の日にポアロでお別れがしたい、安室の根強いファン達が涙ながらに言い出したのがきっかけで、他の客も交えて送別会を行うことになった
『閉店前の一時間だけだし、きっとたくさん人がくるから立食になると思うけど』
 梓は当日ポアロをごった返す人の海を想像したのか、すでに遠い目をしていた。
 恵も良ければ来ないかと誘われたが、生憎と夜遅くに出歩かない主義だ。安室に出会ってから色々あったが、恵の姿勢は一貫して変わらない。暗くなれば安室に家まで送ってもらうのが恒例になっていたが、最後となれば安室を慕う人々がそれを許すまい。
 昼間に行くと伝えれば、悲しげな表情をした梓がぱっと笑顔になった。
 せっかくだから、有給を取ってのんびりしようか。そんな軽い気持ちで有給申請を出したが、よくよく考えると無意味に終わる可能性がある。送別会以外の時間帯に安室へ挨拶に来る客がいないとは限らない。つまり、恵以外にも客が多ければのんびりできる余裕がないかもしれないのだ。いつもであれば少し考えて気づくことだが、うっかりしていた。
 仕方ない、梓や安室が慌ただしく動いていれば、軽食を取って挨拶をしてあとはショッピングでも楽しむことにしよう。
 考えがまとまったところで梓からメッセージが飛んでくる。何時ごろ来店するのかと尋ねる内容だった。じき到着すると返事をしてスマートフォンを仕舞う。
「いらっしゃいませ」
 ポアロに入った恵を出迎えたのは安室だった。別れの気配を微塵も感じさせない安室が恵をカウンター席へ案内する。店内は人が少ない。恵の心配は杞憂に終わる。
「安室さん、今日が最後なんですよね」
「……ご存知だったんですね」
「梓に聞きました。送別会のことも聞いたんですけど、人が多いでしょうから」
「ええ、夜も更けている時間ですしね。こうして来てくださっただけで嬉しいです」
 注文を取ろうとした安室を遮って、梓が「ハムサンドですよ、ハムサンド! 安室さんったら急に辞めるんだもの、最後までバリバリ働いてもらいますから!」と半ば叫ぶようにして言う。
 困ったように眉を下げる安室に、恵は笑いながらハムサンドを注文した。安室が確認してくるが、安室がいなくなれば二度とポアロのハムサンドが食べられなくなると思えば撤回する気にはならない。安室は微笑みながらカウンターへ戻った。
 ハムサンドを作る安室と歓談する。梓は気を遣っているのか会話に割り込もうとはしなかった。安室と恵が他人のまま関係を断とうとしていることに梓は納得していない。納得していないが、どれだけ説得しようと二人が考えを改めることがないのもわかっていた。
 恵が、今日という特別な日に内心期待を抱いていたことに気づいたのは、置かれたハムサンドに拍子抜けしてからだった。四等分にされたハムサンドに、チップスとパセリが添えられた皿は、いつも通りの注文だ。
 金額以上のものを出してもらえる期待や、知人としてのサービスを楽しみにしていたわけではない。最終日、というのがただポアロを辞める日でないことには、恵だけが薄らとわかっていた。ポアロへ来れば、安室がいなくなることへの実感を持てるのではないかと期待していたのだ。
 安室に会えなくなるだけで目の前の男が消えるわけではない。それでも、ささやかに情を交わした相手がいなくなる実感を得るためだけに、恵はここへ来た。すっかり人が変わった自分自身に一笑してハムサンドを手に取った。まずは一口、咀嚼する。
「うん、美味しい」
 てらわない感想が零れた。良かった、と口にする安室が心なしか緊張していたように感じられた。
「もう食べられなくなるんですね……寂しいなあ」
「良ければレシピを渡しますよ。簡単ですから……ぜひ作って、食べてください」
「嬉しい、ありがとうございます」
 安室を好きだと自覚してから、気持ちを吐露したくなる感覚を恵は初めて知った。それでも今までは意識して控えてきたはずの言葉が、最後だと思えば箍が外れたのか口を次いで出る。安室はにこやかな表情で恵の言葉に耳を傾けている。
 ハムサンドを食べ終えても恵は安室とずっと話を続けた。どれくらいの時間が経過しただろうか。話しすぎたことにようやく気づいたのは、梓が信じられないものを見るような目で恵を見ていたからだった。この一時間ばかり、饒舌な安室よりも、積極的に会話をしないはずの恵の口が回っていた。
 恵は言葉を失くす。散々安室の気持ちに気づかない振りをしてきた。決定的な言葉を吐き出さなくても、恋人のように触れてくる安室の体温に自ら混ざるような接し方はしなかった。それなのに最後で手放すのが惜しいと言わんばかりの態度を取るのはあんまりな仕打ちだろう。もうすぐいなくなる、安室透にとっては。
 途端に表情を曇らせた恵は、恐るおそる安室の顔を窺う。安室は、見たことがないほど晴れやかな顔で恵を見つめていた。
「恵さん、たくさん話してくれて、ありがとうございます」
 まるで自分に話せることはもうないと言われているようだった。満ち足りたような、安室の清々しい声のせいで、恵は悲しむことすら許されていない気持ちになった。
 別れ際に「さようなら」と小さく零れた安室の言葉が最後の挨拶だった。またお越しください、と言われる日は二度とこない。安室透はこの日死んだ。



 どうしようもない気持ちを抱えて過ごしているせいか、朝早くに目が覚めてしまった。どうしても二度寝する気にならず、かといって家の中で大人しくしている気分にもなれず、恵は上着を羽織って外へ出る。
 行き場もなく歩を進めていると海岸へ出た。そういえば近所に海があったかと思い出す。帰国して新しく契約した部屋は、海岸が近くにあるため外に物を置いておくと錆びやすいという注意を聞かされた。人混みを嫌う恵が海水浴に訪れるわけもなく、駅とは反対側にある海に足を運ぼうとは微塵も考えなかったためすっかり忘れていた。
 海の向こうは少し明るい。あと数分かそこらで日が昇り始めるだろう。恵は砂浜に続くゆるやかな階段に腰かけて海を眺めた。
「ああ、恵さんだ。最後の最後で、運が悪い……」
 後ろから響いてきた声がやけに耳馴染みのある声だったせいで、振り返らなければいいのについ振り返ってしまった。バーボンが恵を見下ろしていた。
 言葉だけ拾えば悪態のようだが、いつでも本心を隠したままでいるバーボンの、精一杯の甘えなのだとわかるのは恵だけだ。躊躇いがちに発せられたということは、恵が振り返らなければこのままどこかへ行ってしまうつもりだったのだろう。恵は苦笑する。
 横に座れと言わんばかりに階段の石を叩けばバーボンは大人しく恵の横にやって来て腰かける。恵の指先についた砂をバーボンが払い落とした。
「人格が消えるってどんな感覚ですか?」
「……僕にそれを聞きますか」
「ははは!」
 バーボンに尋ねると、今度こそ心底嫌そうな顔をされて恵は笑いを堪えきれなかった。恵が豪快に笑うと思わなかったバーボンは目を点にする。その顔がまた滑稽に映り、恵の可笑しさは増した。
 否定や撤回を求められないということは、やはり安室はもうどこにも存在しないのだ。
 恵はやりきれない思いを吹き飛ばしたくてひたすらに笑った。バーボンは不満そうにしているが、黙って恵の笑いが収まるのを待っていた。
 太陽が顔を覗かせ始めている。恵の眦に浮かんだ雫が、太陽の光を受けてきらりときらめいた。あまりの眩しさにバーボンはゆるりと目を細める。
「穏やかなものでしたよ。欠けていたものが戻ってくるような……忘れていたことを思い出すような、そんな感覚がしました」
「人格が分かれるのは失うことと同義だった、ってことですか?」
「新たに生み出されるものもあるかもしれませんが透に関してはそうだったんでしょうね。透が消えて、僕はずっと持て余していたそれにようやく名前をあげられる気がしたんです。ありふれた喜びが広がって……いっそ、笑えるくらい……」
 バーボンは海へと視線を投げ、思い馳せるように言う。吸い込まれるようにバーボンの言葉は喉の奥へ消えていった。
「まったく、余計なことをしてくれるものです。満足していたはずだったのに……貴方にだけは会いたくないと思っていたのに、いざ貴方を見かけると声をかけずにいられなかった。本当に、僕は、運が悪い」
 バーボンの抽象的な言葉を恵が理解することはできなかった。ただ、その曖昧な物言いすら恵は愛おしく思えてしまう。思わずバーボンに向けて伸ばした手を、バーボンもまた躊躇うことなく取る。
「透のこと、好きだったんですか」
 バーボンの問いに恵はどう答えようか考えた。安室にさえ言わなかったことをバーボンに言うなどひどい神経をしている。安室にこそ伝えなければならなかった言葉を、後悔としてバーボンに吐露するのはあまりにも卑怯だ。
 そう思って窄めたはずの喉がバーボンを見ていると緩んだ。
「好きです。好き、だったんです」
 恵の口から零れた声はあまりにも情けなかった。
「消えるんですか、貴方も」
「消えます。僕はオリジナルを守るために生まれた。オリジナルが不安定だったから僕が肉体をコントロールしていただけで、最終的な意思決定権はいつだってオリジナルにありましたからね。元の状態に戻れるかは条件次第でしたが……僕は、オリジナルに欲しかったものをもらえた。だからもう、戻れるんです……」
 バーボンは恵の手を強く握って自らの頬に当てる。バーボンは涙を流さないまま泣いていた。だから恵も同じように泣くしかなかった。二人揃って、まるで恐怖に身を寄せ合う子供のようだ。恵は漠然とそんなことを考えた。
 バーボンから自我がなくなることへの恐れは感じない。だとすれば、一体何に怯えているのか。恵は脳を掠めた疑問を一蹴する。バーボンが抱く恐怖は、安室が抱いた恐怖も、恵が抱いているものとまったく同じに違いない。
 恵はもう一方の手をバーボンの片頬に添えて互いの額を合わせた。恵を見つめる青い瞳がゆらゆらと不規則に揺れている。まるで海だ。蒸気となり、雲となり、雨となってまた海へかえっていくもの。形を変えて恵の傍に在り続けるものだ。
「私が人に成れたのは貴方達のおかげ。だから、貴方が望んでくれるならずっと傍にいます。貴方達がいなくなっても、私は絶対に忘れない」
 やさしい熱に包まれて、バーボンは目を伏せた。凪いだ瞳に、日が昇る。

 次に目を開いたとき、バーボンは既にいなくなっていた。恵が顔を上げると、男は硬い表情で恵を見つめていた。安室の柔和な気配でも、バーボンの鋭敏な気配でもないものが恵を包み込んだ。
「降谷零、僕の名前だ」
 だれの名前かなどとは聞くまでもなかった。安室でもなく、バーボンでもない男、二人がオリジナルと呼んだ男の名に違いない。
 だれもが頑なにその名を口にすることを避けていたため、初めて鼓膜を震わせる響きのはずなのに、ずっと昔から知っていたのかのように深く恵の記憶に刻まれた。一生忘れられないものとして残ってしまいそうなほどだ。
 名乗られたからといって気安く口にしていいものか迷った。男のおおよその事情は察している。気安く名乗っていい名前でも、呼んでいい名前でもない。恵は男の出方を窺う。
「呼んでくれ。ずっと、君に僕の名前を呼んでほしいと思っていたんだ」
 青い瞳、金糸の髪、男の全てが朝日を受けて輝いていた。男は、生きながらにして再び生を受けたのだ。命のきらめきをそのまま身に宿したような男を見て、恵はあまりの眩しさに瞳を覆いたくなる。だが、恵の両手は男の頬に添えられていて、上からは男の手が重ねられているため動かすことが叶わない。
 眼前を舞うきらめきに目を細めると、視界が揺らめいた。男の輪郭が歪んでいく。涙が零れ落ちていくように、恵は声を漏らした。
「降谷、さん」
「うん」
「降谷零さん……」
「……ありがとう」
 恵の体ごと抱きすくめる降谷は、うわ言のように降谷を呼び続ける恵の耳元で、降谷もひたすら感謝を言い続けた。聡明であると自負する降谷が、感情を上手く言葉にできずにもどかしさを覚える。それでも、ただ腕のぬくもりを感じていたいことだけはわかった。
 いつかの憧憬が今、腕の中にあった。安室が戻ってきたことで、バーボンの震えるような喜びが理解できる。バーボンが戻ってきたことで、安室の尊い感情を理解できる。
 全てを明かすことは許されない。明かすつもりもない。それを恵に理解されたいとも、理解してもらおうとも思わない。ただ、安室とバーボンが戻ってきたことで、降谷にはやりたいことができてしまった。
「恵さん、聞いてください」
「……はい」
 恵と今後の人生が交わることがなかったとしても、降谷には育みたいものがあった。
「貴方を大切に思っています。それが、安室の抱いていた愛しさや、バーボンの焦がれる気持ちと同じかはわからない……だけど、僕はこれが恋や愛であってくれれば良いと思っている。だから、これから貴方と関わって……たくさん話をして……いつかきちんと、貴方を好きだと、言いたい」
 恵はまろやかに微笑んだ。恵が愛したのは降谷の一部だ。安室に想いを寄せたように、バーボンにやさしくしたかったように、降谷を想うことだってできる。降谷もまた同じなのだろう。
 明けない夜はない。きっと恵と降谷は幸せになれる……そう恵は直感した。エンディングの描き方は、人それぞれなのだから。


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