ぎぎぎぎんたま! | ナノ


▽ お金のお話




「まーた、お前ですかィ」
「またあなたなの、おまわりさん」
「何度目なんでィ」
「知らないわよ。で、また違う女なの」
「お前こそ、違う男じゃないですかィ」


自分を棚にあげるんじゃねェや、なんてケラケラ笑うこの男は、今こそ私服であるものの、いつもは黒い隊服に身を包む、泣く子も黙る…んだっけ、真選組の、1番隊隊長さんである。もっとも、今は「うわぁ、どぎっつい匂い移ってらァ」などと失礼な事を言っているが。
そんな彼と、ばったり出会ったのは、所謂ラブホテル、というところの前。正確には中で既に出会っていたのだが。


「男ってバカよねぇ、股開いてあんあん言うだけでお金くれるんだもん」
「俺ァ払わねェがな」
「あ、そ。あんたはそーかもね」
「女が寄って集ってくるからねィ。どーでィ、あんたも」


嫌味だ完璧に。あーあ、女泣かせ、同情するよこれは。
あんたも、だなんていうけれど。バカを言うなってお話。…興味がないわけではないのだけれど。


「断る」
「そりゃ、残念。ちっと興味あったのに」
「…あら、そう。残念、私が欲しいのは興味じゃなくてお金だもん」


ちょっぴり嘘である。
……お金欲しいもんな、生活苦しいもん。……なぁんで、私のじゃないのに借金があるのかな、意味がわからない。
あと、どれくらい、こんな生活をしなければならないのやら。あー、涙出てきた。


「お前が、…やめて」
「は?」
「お前が、そういう生活やめて、」
「うん?」
「俺の隣に居てくれるってんなら…金には困らせませんぜ?」


もちろん、借金もろとも。

…驚いた!何を言ってるんだろうこの男は!今しがた男から金を受け取って喘いできた女に向かって。
よろしくない冗談である、非常に好ましくない。呆れてものも言えないわ、仮にも警察でしょう!?
流石にラブホの前にずっと留まるのもどうかと思うので、どちらともなく歩き出す。


「へえ、そうやって女口説いてるの、女泣かせだねえ」
「違いまさァ。俺ァいい男だからねィ。女が勝手に寄ってくるんでィ」
「ふうん、女も大概ね。どーみても性格悪そうなのに」
「お前に言われたかねェや。……だから、ハジメテ」

くりくりとした、確かに可愛らしい蘇芳色の目が、チラリとこちらを見て、やけにハジメテ、を主張してくる。
口元にスラリとした、侍らしい、武士らしい少しごつごつとした指を持ってくる仕草が、かわいくて腹立つ。


「何が?」
「…はーっ、だから、自分から口説こうと思うなんて、初めてだって言ってるんでィ」
「…ふうん?名前も知らないくせに?そのへんの男に腰を振ってる女に?」
「……いや名前までは正直知りやせんけど、お前の存在は前から知ってやしたぜ?」
「は?」
「だって、昔甘味処で働いてるところ、見たことありやしたもん」


うわ、懐かしい、甘味処で働いてたのってもう1年も前。
その甘味処まで借金取りっていうの?が来るのが怖くて、迷惑かけたくなくて、辞めたんだった、懐かしい。
まさか、そんなところで知られていたとは。


「……一目惚れ、したんでィ」
「…え?」
「いつからか、見なくなって。ちょっと、探しやして」
「私を?」
「そうでィ」
「…へえ?」
「……んでィ、わりぃかよ」


…………それは、まった悪趣味だなぁ……。
、ぼーっと夢を見ているかのような心地で前を歩く沖田を眺める。
すると急に立ち止まって後ろをぐるりと向いて。足をこちら側に踏み出して


「ね?…だから、どうでしょう?」
「な、にが?」
「俺、結構かっこいいと思いやせん?」
「じ、ぶんで言う!?」


つかつかと軽い足取りで迫ってきて、目の前で、本当に目と鼻の先の位置で。
片手を軽く私の頬へ置いて。ちょこん、と首を傾げつつ、怪しげな笑みを見せつつ、言う。


「ね?好きでさァ。………付き合って?」


つーか付き合いなせェ。
さり気に選択肢を無視したセリフを放って、唇を落として、抱きしめられる。
…もちろん、唇を落とすだなんて言っても頬に。

流石に答えてないのに口にされたら全力で殴らせてもらう。



お金のお話。
((答えは残念ながらYESですよチクショウ))




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