文章
※たまに成人向けも投下
※苦手な方は回れ右!




015/良い子になるね
▼一はと土井(130903)
泣かないでくれ、と願うほどに零れ出る目の前の涙に、とうとう私は途方に暮れることにした。
泣き止ませるつもりがこの教室に居合わせた全員をもれなく泣き顔にしてしまうとは、一体全体どういうことだ。涙は伝染でもするということだろうか。
「せん、っせ…僕…もうあんな無茶はしませんから…っ!」
珍しく感情を全面に、鼻を垂らしてなかなか派手に庄左ヱ門が泣く。
「あんなことって何をだ?」
くりっとした頭に手を置くと意志の強い大きな目から、これまた大きな涙が再び。ぽとり。
「俺も。もう二度と読めない字で先生をあんな目には…」
「僕も火縄の件は反省してますー!」
「…待て、お前らほんとに私に何をした…?」


胃炎が深刻化していく土井先生が、いつか自分達のせいで倒れてしまうのではないかと不安になって泣きじゃくる一はの話。
これ発破かけたのが山田先生とかだったら萌えるね。これ以上、お前達が心配ばかり掛けるようならいつか半助が倒れるぞ!っつって。




014/胸元から確信犯の笑い声ひとつ
▼文竹(130814)
これは何の冗談だろう。少し下げた視線の先に馬鹿のように濃い隈を見た。見事に不健康。
「…潮江先輩」
「…」
「先輩」
「何だよ」
何だよじゃねーよ。と思うこの体勢から取り敢えず脱しようと身を捩らせる。
が、直後するりと伸びた手が両脇から体幹を掴んでまた元の位置に引き摺り戻してしまう。ほんと何なんだこの人は。
「ここ三日ばっかりまともに寝てねーんだよ…」
「だからって」
「昨日、酒の席で何でもすると言ったろう?」
「…俺、限度と遠慮は大事だと思うんすよねー」
「…」
小さく聞こえたケチという呟きは聞こえなかったことにして。ついでに向かい合って胸に乗っけられたまま動かない頭と、背中に回った手にも気付かないことにする。
「あの、潮江先輩」
「…ぐぅ」
「寝たふり!」




013/縫い付けて、離さないで
▼こへ留(120924)
器用。他人から言われることは多けれども、他人をそう思うことはなかったように思う。
「…器用なんだな意外と」
普段は苦無を握る指が、小刻みに針を操っては布を縫い合わせていく。
その光景に目を奪われて早一時間。爪に入り込んだ土が違和感を目立たせることに気付き、未だに視線を外せないでいる。
「これ、仕上がったら」
「あ?」
「留三郎に」
にかっと開いた口が、私だと思って大事にしてくれ、なんて女みたいな台詞を吐く。お前そんな柄じゃないだろうが。
「…まぬけな顔」
「え!」
手元の人形を指差す。安心したような笑顔は奇しくも同じ笑顔であった。





012/Are your eyes several volts?
▼こへ留(120508)
量の多い髪を盛大に揺らして駆け寄って来る姿に、実家の近所で飼われている日本犬を思い出す。
「待て」
「おっ?」
抱き付かれる寸前で片手を突き出すと驚いた声を漏らして足を止めた。
それで次は何だ…!みたいな。そんなきらっきらした眼でこちらを見るな。俺はその眼に滅法弱い。
「どうしたのか知らないが早くその手を下ろせ留三郎」
じゃないとお前を抱き締められないだろう!
って、いや、そんな良い笑顔で言われても。勝手に手まで下ろすし…握るし。今更制止を聞くような相手ではないことは重々承知している、が!
「好きだぞ、とめさぶろーっ」
だっから、その眼に弱いのだと…!

◎タイトル和訳
Are your eyes several volts?→お前の瞳は何ボルトあるんだ?

たぶん英文はこれであってる、はず。日本語が既に正しくないから英訳が困難。





011/厚さ2mmの遠距離恋愛
▼こへ留(120508)
しっかりとした骨格に、がっしりとは言えないがそれなりの筋肉を身に付けて。男はこちらに背を向けて立っていた。
「じろじろ見んな」
「お!じろじろって響き何か可愛いな!」
思ったことを思ったままに口にすると、たまに留三郎は苦い顔をする時がある。今がまさにそうだ。でも私には何が悪かったかなんて難しいことはよく分からないので、今日も今日とてにっこりと満面の笑みを返す。
「…で、」
「ん?」
「言われた通り脱いだけど、どうすんだよ」
「そりゃあ…」
腕を広げて近付いて行くとぴくり、と一度身を跳ねさせただけで逃げはしなかった。かといって大人しく腕に収まる身体が熱く熱を帯びる、なんてうぶな反応があるわけでもない。
「結局これがしたかっただけかよ」
「あと強いて言うなら邪魔だったから」
「邪魔って…」
素直に、床に脱ぎ捨てられた緑を指差すと、今度は小さく笑われた。
「布の分だけ遠い感じがするじゃん」
「しねーよ」
でも、まぁそうだなあ。楽しそうに背中に回った手がゆっくりと腰紐を引っ張って。
ああ、その顔が堪らなく好きだなーと緩まってゆく衣服と共に表情も緩む。
「ニヤけんなよ」
「だって留三郎からとか楽しくってさー」
「バカ。つーかお前も脱げ、俺もこれ邪魔」





010/確かに愛には違いない
▼伊留※こへ留前提(120508)
どろりと吹き出た黒いそれが、まさか自身から溢れたものだとは思いもしなかったので些か動揺、した。
留三郎、小平太。お互いを呼びあう声は間違いなく本人達のもので。トイレットペーパーを抱えたまま横断しようと思っていた道に足を踏み入れられなくなってしまった。
過敏になっているつもりではないが、やたらと布擦れの音が耳について離れない。よくよく知っていたはずの同室の彼の声色が、まったく知らない雰囲気を放って友の名前を呼んだからといって。それだけでこんなにも。
ドクドクと脈打つ心臓を駆り立てるのは焦燥感だ。だけど僕はそんなつもりで、違う、そんなつもりじゃない。ただ仲の良い友達として、一番の親友として。
「好きだ」
なんて、背後で聞こえたそのたった一言に、呆気なく僕の世界は崩れてしまったのだけど。



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