文章
※たまに成人向けも投下
※苦手な方は回れ右!




009/いつまでも続かない幸せに泣き出してしまいそうな私は紛れもなく幸せ者だった
▼五年生(120508)
いつものように定食を受け取って席を振り返ると。いつものように同級生の四人が集まって座っていて。そして、いつものように自分の席を取っておいてくれていた。
まるでそれが当たり前とでもいうかのように。ごく自然と。
「何にしたの」
「えっと、焼き魚定食」
「あ、俺も!」
「僕も」
「何だよ揚げ出し豆腐にしたの俺だけかよ」
「そりゃそうだろ」
打ち合わせた訳でもないのに途切れることなくだらだらと続く会話はある意味一種の芸ですらあると思う。どうでも良いことだ、と。端から見ればそんな内容なのかもしれないが。
けれども混み上がるこの温かな何かが確かに在るのだ。幸せだとすら思ってしまう何かが。此処には。
「それでは、勘右衛門が揃った所で」
「お手ての皺と皺を合わせて…、」
「三郎それ違う!」
「やめろ不謹慎」
せーの、と揃った五つの声があと何回聞けるだろうかなんて無粋なことはまだ考える予定ではないので。保留。




008/何故お前が、
▼文竹(120508)
それは酷く激しい暴雨の夜のことで。さすがにこんな日に後輩を召集するのも酷な気がして、何よりそこまで急ぎの仕事でもないので。だから、たった一人委員会部屋に籠っていたのだ。
それなのに、だ。
「あの、あれだ、ちょっと待て」
「はぁ何でしょう?」
盆に湯気立つ湯呑みを乗せて襖を叩いた行為に。何よりその人物に。どうしたものかと小さく呻いて頭を押さえた。
「もしかして迷惑でした?」
「いや違うそうじゃない、そうじゃないんだが…」





007/幸福感染
▼ルサン※ゾロ視点(120508)
小気味良い音に目が覚めた。普段ならば寝起きは不機嫌な方なのだが、リズミカルなそれに緩和されて寧ろ穏やかでもある。
トン、と落とされる右手の反動に揺れる金色がやけに眩しい。何となく息を潜めて、目を細めて、その後ろ姿を眺めているとすぐ近くで笑い声がしたので思わず目を見開いた。そこに居たのか船長。
「どうした?」
「んー何か」
優しい声で訪ねるコックに、幸せだなーって、とけらけらと言葉通り幸せそうに笑う声が寝ているソファの真横を通り抜けていくので、どうやら眼中に俺はいないようである。
なので、視界の中で重なっていくその二つの唇に悪気はないのだろうと。また、俺は静かに瞼を閉じたのだ。





006/白濁した視界に目眩
▼こへ留※R18(120423)
水音を立てているのが自分なのか相手なのかは最早よく分からなくなってきた。
内臓を抉るような熱に喉が低く震えると、同じように籠った声が耳元に掛けられる。嗚呼だか、良いだか。曖昧な言葉が時折裏返った声で漏れるので、堪らずきゅうっと抉るそれを締め付けてやる。
途端、背中に掛かる重みがずしりと増して辛そうな呼吸が更に耳元へと近付く。
…やばい。ぞくりと身体を這う気持ち良さにもうどうしようもなくて、次の瞬間にはどろりとした不快感に似た快感を得た。
「……出た…」
「ごめん私まだ……あっ」
ぼんやりと薄く開いた目に見えた鏡の中。晒け出された喉仏に、再度。喉が震えるのを感じた。





005/組み手の練習中
▼こへ留(120405)
「痛ぇんだよ、この馬鹿!!」
「痛くないぞ」
やられている本人が痛いと言っているのだからお前が否定するのはおかしいだろう!と言ってみたところで何が変わるわけでもなく。
頭上に疑問符を浮かべて、何で?と首を傾げてこちらを覗き込む姿に、ああ今度は頭が痛む。
「頭、痛いの?」
「…まぁな」
「腕じゃなくて?」
「…」
腕は、まぁ痛いんだけどなずっと!と声を荒げるより早く、何を勘違いしたのか楽しそうな笑顔がギリリとさらに力を込めた。
「痛かったら痛いって言えよー!」
「…お前ってやつは!」





004/いつか離さなければならぬと知りながら私は
▼成長黒木兄弟(120405)
背中を温めていた熱が冷めてからどのくらい経っただろう。
よく似ていると言われていた顔も、年々違いばかりが目立つようになってきた。
そうっと頭を撫でてやると嬉しそうに細められていた目は、今では困ったように端を下げてこちらを見上げる。
「良い子だね」
「…兄上ほどではありませんが」
「ううん、僕よりも庄二郎の方がうんと良い子だよ」
そうですかと素っ気ない言葉とは裏腹に、照れると困ったように笑うところは似ていたのだなあ、と。まだ小さいその手を握った。



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