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 ブチャラティからの、最後の電話から一週間。
 この間、ブチャラティは一度もユウリの元を訪れていない。

 壁に掛かった、犬の写真つきのカレンダー。その日付を確認しては、ユウリは大きなため息を吐く。

(…ブチャラティ。一体、どうしたっていうのよ…)

 ブチャラティに会ったのは、彼が風邪をひいて倒れたあの日が最後。一週間以上も、ブチャラティの顔を見ていないなど初めてのことだった。

 彼との接触を断って初めて、いかに自分が彼に依存していたのかを実感する。この静かな部屋に、一人でいると、足元から這い上がってくる恐怖と不安に、心を掻き乱される。知らない土地で、誰も味方のいない中で、孤独の闇に、押しつぶされそうになる。

―――この世界の誰も、私を必要としていない―――

 その事実を突きつけられているようで、思わず、泣き出しそうになる。幼いころ、薄暗い部屋で一人、兄の帰りを待っていた、当時の恐怖が蘇ってくるようだ。

 一人は嫌だ。ずっと孤独だった。寂しかった。この広いイタリアで、やっと、信頼できるヒトを見つけられたと思ったのに。

―――兄さん。私、どうしたらいいの…。

 ベッドの上で、ユウリは、自分を抱きしめるかのように、自身の両肩に腕をまわした。そのまま、肩に爪を食い込ませる。深く、痛く、傷痕になるように。実際は、数日も掛からず、その爪痕は消え去るのだが、今のユウリには、たとえ気休めでもよかった。ブチャラティが与えてくれた優しさ、ヒトと触れ合う温かみ、それらを刻み込む“痛み”が必要だった。


(ブチャラティになら、話せると思った。私の―――)

 彼を、巻き込んではいけない。その思いも確かにあったが、それ以上に、いや、それすらも考えられないほどに、彼が恋しかった。彼を愛している。きっともう、後戻りできないところまで来ているような気がした。


『お前が、好きだ』

 あのとき、ブチャラティはそう言った。彼が、嘘や冗談でそんなことを言うとは思えない。
 ユウリは、わからなかった。彼の真意も、これから、自分がどうしたらいいのかも。

(ただ、願うのは―――)

 ブチャラティに会いたい。すらりとしたあの両腕で抱きしめて欲しい。何のしがらみもない、ただ普通の男女として出会えていたなら、当たり前のようにそれらは叶っていただろう。

 過ぎていく時間の中で、自分だけが取り残されていくような―――、どうすることもできない恐怖が、痛みを伴い、ユウリを取り囲んでいた。この狭い部屋に、彼女は今も囚われているのだ。




2012.05.21
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