12
RRR…

「プロント」
「…ユウリ。昨日は、すまなかった」
「ブチャラティ…」




 ―――あれから一夜経った。
 翌日、遅い昼食をとり終えたころ、ブチャラティはようやく電話を鳴らした。
 果たしてユウリは出てくれるだろうか?そんな不安もあったが、ユウリは数コールで電話に出た。
「ブチャラティ、昨日は…」その声色は、不安と安堵が入り混じっており、まるで、母親の遅い帰りを待つ子どものようだ。

「本当に、すまなかった」
「…いいのよ」

 けれど、次の瞬間にはもう、いつもの彼女の口調に戻っていた。

「忙しかったんでしょう?全然気にしてないわよ。別に、大した用事じゃあなかったの」
「…そうか」

 素っ気なく返すブチャラティに、ユウリはなおも続ける。

「あ、そうだ。今日は忙しいかしら?あのね…」
「すまない、ユウリ。当分、立て込んでいるんだ。用事は極力、一回にまとめてもらえないか」
「えっ…」

 ユウリの言葉を遮ってまで、伝えられたその一言に、ユウリは明らかに動揺した。

(―――どうして?)

 その思いが胸中を占めていた。今まで、ブチャラティは、何よりも自分のことを優先していたはず。それが、どうして今、ここに来て――?

 ブチャラティが嘘を吐いているとは、思いたくなかった。けれど、昨日、電話口で彼を待ち続けていたときの不安を思い出し、ユウリはふるえた。サア、と急激に全身が冷えていく。


 けれど、我が儘を言うことは、できなかった。面倒な女だとは思われたくなかった。
 年上の女として、彼を愛した一人の女として、物分かりのいいふりをしていたかった。

「そうなの。わかったわ」

 しょうがない人ね、なんて強がって、いい女ぶっている。本当は、どうしようもなく不安を感じている。今すぐにでも、ブチャラティに会いたいと思っているのに。

「…本当に、すまない」
「いいったら。可愛いブチャラティの頼みだもの」

 フフ、と電話口で笑うユウリの声。ブチャラティは、胸が締めつけられそうになる。
 彼女はすでに無理をしている。けれど、ここからさらに、彼女を突き離さなくてはならない。これ以上、彼女が自分に依存するようなことがないように。

(そして…)

 この、一抹の沙汰は彼女の為でもあり、自分の為でもある。愛した女。ユウリとの離別を決意した。そう、これ以上、彼女を愛してしまわないように―――

「…それじゃ」

 感情の起伏のない、冷徹な声で、ブチャラティはその電話を切った。
 電話と同じように、彼女への想いも断ち切れたなら、彼は、きっともっと、ずっと、苦しまずに済んだだろう…。




2012.05.20
[ top ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -