ナランチャと姉 ナランチャに姉がいると発覚したのは、つい数ヶ月前のことだ。 姉と言っても母親が違っており、彼女は父親の私生児だった。ナランチャの両親は異母姉の存在を息子に告げることはなく、長い間彼の知るところではなかったが、姉の方はなんと弟を探し続けていたのであった。 ナランチャがギャングとなってしばらく経ったころ、彼らのチームの元へユウリは現れた。突然現れ、姉と名乗る彼女をはじめは警戒していたナランチャだったが、穏やかで優しいユウリに次第に心を開いていった。今では彼女が働くカフェへ足を運ぶのが日課となっている。 もちろん今日もそうだ。フーゴと共に買い物に出たナランチャは、彼を引き連れてユウリの店へ訪れていた。 「働き者ですね、あなたのお姉さん」 「だろォ〜?」 先ほどユウリが運んできたコーヒーを飲みながら、へへへ、とナランチャは日当たりのよい窓際の席で脚を伸ばす。 ユウリはてきぱきと手際よく動いている。おもむろにユウリに手を振ると、一瞬驚いた顔をして、けれどすぐに笑顔で振り返してくれた。 「俺にあんなキレイな姉貴がいたなんて、知らなかったァ…」 呆けたようにナランチャが言う。 そうですねとフーゴが同調すると、そうだろォ!!と大声が返ってくる。 「ちょっと、ナランチャ。さっきから声が大きいわよ」 ユウリがテーブルのすぐそばに立っていた。咎めるような言葉とは裏腹に、その表情は楽しげだ。 「あッ、ユウリ! 俺、うるさかった?」 「ふふ。大丈夫。元気でよろしい」 「ユウリ〜ッ!」 大きく目を輝かせるナランチャの頭を、わしわしとユウリが撫でる。心地好さそうに目を閉じるナランチャはまるで子犬のようだ。 仲睦まじい二人の様子を、フーゴは片肘を付きながら眺めていた。 不思議なもので、ナランチャとユウリは髪の色も眼の色も違うというのに、その顔立ちはやはりどこか似ていた。 「あっ、フーゴぉ! なにユウリのことジーッと見てンだよォ!」 姉貴にヘンな気起こすなよ!と威嚇するナランチャだったが、フーゴが反論するより先に、他でもないユウリから「フーゴ君に失礼なこと言わない!」と注意され、ふぁい、と気の抜けた返事をした。 そうこうしているうちに他の客に呼ばれ、ユウリはまたねと言い残して立ち去った。 「なあ、あの子、すげー可愛い」 「あ、いいね。声掛けようぜ」 不意に、近くの席から声が聞こえた。若い男の二人組。言うまでもなく会話の内容はユウリのことだ。 「なンだとォ〜〜〜ッ!?」 考えるより先に体が動いていた。 ナランチャは男たちのテーブルに手を叩きつけ、お前らァ!!と声を荒げた。 「うわ!? なんだお前!?」 「うるせェー! ヒトの姉貴にチャラチャラ絡んでんじゃあねえッ!」 男の胸ぐらを掴むナランチャに、駆けつけたフーゴが「イヤまだ絡んでないだろ」と冷静に突っ込む。 「同じようなモンだっつーの!! お前らみたいなチンピラが姉貴に近づくんじゃあねえッ!!」 「チンピラはテメーだろ!! 何なんだこのガキ!?」 「ガキだとォ!? ナメてんじゃあねーぞコラッ!」 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる男たち。一番の混雑時を抜けたとはいえ、今は一応ランチ時なのだ。立派な営業妨害だが、こんなことはもはや日常茶飯事と化していた。 「おいテメー、オモテ出ろ!」 「あぁん!? 俺とやろうってのか!?」 「…ちょっと、あなた達」 「あッ、ユウリ」 途端、ころりと甘えた声になるナランチャに、先ほどまで喧嘩腰だった男たちはずっこけた。 「ごめんなさい、弟が失礼を」 「い、いや…」 「あんたも大変だな…」 「おい、ユウリッ、愛想よくしなくてイイからッ!」 まだ言うか。ユウリが溜め息を吐いたとき、男が言った。 「このガキ、いい加減にしろッ! 殴られなきゃわかンねーのか!」 「あぁ!?」 また始まった。呆れたフーゴが止めに入ろうとする。 …が。 「ちょっとアンタ達!! 黙って聞いてれば、さっきから弟になに言ってくれてんのよッ!!」 「お…お姉さん…」 「姉貴ィ!」 盛大なユウリのキレっぷりに、男たちは固まった。そして思った。この二人、間違いなく姉弟だ…、と。 了 2019.03.19 お題「ナランチャ夢で姉弟」 |