6.嗚呼、どうか朗らかに! おい、と背後から声がして、ふり返る。 「あら」 しばらくぶりの仏頂面。といってもたったの四、五日の話だけれど。 「修学旅行じゃあなかったの?」 「今帰ってきたとこだ」 「そうなの」 おかえりなさい、と長身の少年に手をのばす。それを待っていたかのようにスタープラチナが姿を現し、体温のないその両手で私を抱きしめた。 「スタープラチナ。久しぶりね」 よしよしと背をさすってやると、満足したのか――それとも彼の本体である空条承太郎に遠慮してか――スタープラチナはすう、と少年の背後に戻っていった。 案の定、空条君は面白くなさそうな顔で舌打ちをした。帰ってきて早々、面倒くさい子だ。沖縄の青い空海に、すこしは感化されて戻って来てもいいんじゃあないだろうか。 「で、空条君、どうしたの?みんなもう帰っちゃってるでしょ」 きょろきょろと廊下を見まわしてみるが、放課してしばらく経った教室内はひと気がなく、静かなものだ。 そんなに私に会いたかったのだろうか、などと思っていると、空条君がのしのしと近づいてきて、握っていた拳を私の鼻先に突き出した。 「ん」 眼前に差し出されたグーがほどける。あわてて両手を差し出すと、ポトッと手のひらに小さなものが落ちてきた。同時にリン、と鈴の小さな音がした。手のひらに落とされたそれは、ご当地もののネコのキーホルダーだった。 「えっ。可愛い」 左耳にリボンをつけた、おそらく世界一有名なネコのキャラクター。ゴーヤの着ぐるみを着ており、もはやネコの面影はないけれど。 「やる」 「え、ほんと」 空条君からまさかお土産がもらえるなんて、と些か、感動すら覚える。大事にしよう。 「ねえ、ひとつ聞きたいんだけど、空条君、どんな顏してこれ買ったの」 純粋な疑問をぶつけてみる。ご当地ものとはいえ、ネコのキャラクターグッズを持ってレジに並ぶ空条君なんて想像できない。 「あ、もしかして、クラスの女の子に頼んだの? そうだよねぇ、こんなカワイイの、空条君が買うわけないよねぇ」 「…うるせーな…」 チ、とバツの悪そうな舌打ちが聞こえて、顔を上げた。見上げると、そこには見慣れた顰め面があった。 「だから怖いって!そんな顔してこれ買ったの!」 「だったら何だ」 店員さんが可哀想、とは、とても言えない。 けれど、彼は案外、旅行先でもモテているかもしれない。そう考えると無性に苛立たしく、この顔で愛想ふりまかれるのもそれはそれで困るなぁ、などと思ってしまった。 了 2013.07.21 |