04
 これはほんの少し、前の話だ。
 この館に連れて来られた当初、花京院君は衰弱しきっていた。
 食事さえまともに摂ることができず、日に日に痩せ衰えてゆきながらも、彼は同時に、館の住人を頑なに拒み続けた。指一本、触れることも許さず、また、彼らから与えられる食事の一切を拒絶し続けていたのだ。
「花京院くん、またゴハン食べてないの」
 …唯一、私を除いては。

「ユウリ、さん」

 覇気のない瞳。DIOへの恐怖から、戦意さえ失っているようだった。
 私は、同じ日本人だという理由で、彼の面倒を見るよう命じられた。肉体を支配する前に、まず彼の心から懐柔していく。それがDIOの狙いであった。
 そしてDIOの思惑どおり、花京院君はゆっくりと、ほんの少しずつだが、私に心を開いていってくれた。
 DIOに服従する身としては、それは何よりも芳しいことなのだが、どういうことか私は、同時にとても悲しく思えた。こんなふうに、下心を隠して彼と接することが苦しかった。

「ユウリさん、ぼくは殺されてしまうんですか?」

 繊細そうな瞳が、縋るように見つめてくるたびに、心臓を鷲掴みにされたような心地がする。
 今の彼は赤ん坊のようなものだ。満足に体も動かせずに、母親だけを頼りに泣き続けている赤ん坊。誰かが支えてあげなければ、きっとすぐに消えてしまう。

 私はできるだけ優しい声色で言った。

「DIOはキミを殺すつもりなんてないわ。大丈夫。私が守ってあげるから」

 そう言って、痩せたその体を抱きしめると、彼はわずかに震え、やがて眠りに落ちるのだった。
 少年の安らかな寝顔は、悪に染まりかけていた私にとっては毒でしかないようで、体の芯から、浄化されてゆくような気がした。陽だまりのような、あたたかな光を感じた。

「………花京院くん」

 善にも悪にもなりきれない自分が嫌だった。私は、彼を抱きしめながら時折、泣いた。



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