01
 この少年は宜しくない。
 彼を一目見た瞬間からそう感じていた。

 強張ったうすい身体に跨りながら、名前を呼んでみる。

「花京院くん」
「っ」

 怯えたような瞳が私を見上げる。ビードロのように透き通った美しい瞳はどこか虚ろで、DIOによって恐怖を刻み込まれていることがありありと見て取れる。

(まあ、無理もないか)

 この世の誰より妖しく気高い我が主、DIO。崇高なる目的の為、彼は夜な夜な街に繰り出しては、自身の手足となる従順なしもべを探している。
 ある時彼はひとりの少年を連れて来た。
 少年は暫しの間DIOの自室に軟禁されていた。私がDIOに呼ばれ、彼の部屋を訪れたとき、少年は乱れた学生服に生白い肌を隠し、ベッドの上で、拘束された手足をぐったりと投げ出していた。
 少年は怯えた目で私を見る。その、瞳の中の僅かな光にすら翳りが見える。
 ただ恐怖に支配された脆弱なひと。うつろいゆく俗世に不釣り合いなほど儚げで、美しい。

(この少年は―――) 

 ―――宜しくない。
 それが私の、花京院典明に対する第一印象だった。




「花京院くん。こっちを向いて」

 私を見て。
 両の掌で、体温の失われた彼の頬にそっと触れる。私を見つめる花京院君の目は、うっすらと涙が浮かんでいてとても綺麗だ。

「ユウリさん…」

 熱っぽい息が喉元を掠める。

 ぼくを、どうするつもりですか。
 日本人離れした碧眼がそう訴える。

「さ、さわらないで…」

 首を横に振りながら縋りつく花京院君をそっと制し、無防備な唇にキスをした。
 無気力だった唇は、私がふれると途端に強張り、頑なに拒絶の意を示してくる。
 触れるだけの口づけを繰り返し、ゆっくりと唇を離す。

「そんなに怖がらないで。何も痛いことなんてしないわ」

 薄っぺらな上半身を撫でながら、痩せた長身をベッドに沈める。
 ベッドのスプリングが悲鳴を上げるが、花京院君の息遣いがそれを掻き消していく。


 …酷いひと。
 私は心の中で、主人であるDIOに毒づいた。



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